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第33話
エルモンドにはジェラルドと、その他3人の部下が、付き添っていた。放っておけば、いつ、アロンツォとドナテッラを、殺しに行くか分からなかったからだ。
「エルモンド、奴らから話を聞いてきた。聞きたいか?」
きつく唇を噛み締め、エルモンドは無言で頷いた。その瞳は殺気立っていた。
「まず、ドナテッラだが、黒魔術を使い、王太子を操った理由は、王太子に振り向いて欲しかったから、ロゼッタ様から、聖女の座を奪った理由は、ちやほやされたかったから、だそうだ。モディリアーニは、尊敬されたかった、と言ったところだろう。あまりにも身勝手な理由を並べ立てていたが、要するにロゼッタ様や、コルベール前教王を、妬んだってことだ」
椅子に座り、静かに聞いていたエルモンドは、勢いよく立ち上がり、怒りを爆発させた。
「そんなことのために!そんなことのためにロゼッタは、殺されなければならなかったというのですか!あいつらを殺してやりたい!仇を打たせてください!」
「気持ちは、よく分かる」
「いいや、分かっていない、俺の気持ちなんて、誰にもわかりっこない!」
「お前が、私的制裁を加えてしまったら、あいつらは、永遠に裁かれない。代わりにお前が裁かれてしまう。そんなこと、ロゼッタ様は喜ばない」
「——関係ない、俺がそうしたいんだ」エルモンドの頬を涙が伝った。
「辛抱しろ、ドナテッラも、モディリアーニも、死刑は確実だ。必ず裁きは下る。そのとき、お前が、死刑執行人になれるよう、手配してやる。そうすれば、堂々と仇が打てる」
「アロンツォは?ロゼッタを殺したのはあいつだ!あいつが馬鹿だったせいで、ロゼッタは死んだんだ!」
「アロンツォは、操られていたんだ」
「そんなの関係ない!」
アリーチェが、軽食を持って部屋に入ってきた。
「そろそろ皆さん、お腹が空いただろうと思って持ってきました」
「俺は食べる気になれない——悪いが……」エルモンドが言った。
「皆さんで食べましょう。ジャムをたっぷり塗った白パンに、桃のコンポート。覚えていますか?ロゼッタ様が、初めてこの桃のコンポートを食べた日のこと。とても驚かれて……」
アリーチェは、テーブルに持ってきた皿を並べながら、溢れてくる涙を止められず、それ以上、話せなかった。
タルティーニは、アリーチェを手伝い、皿をテーブルに並べていった。
エルモンドと、ジェラルドと、アリーチェと、タルティーニは、テーブルを囲んだ。誰も喋らなかった。それぞれに、思い出を振り返りながら、ロゼッタを思った。
夕日が水平線に近づく頃、王都からヴェルニッツィ侯爵を、捕縛したと知らせが入った。
タルティーニは部下に、明日の朝、ここを立ち、王都へ向かうと伝えた。
エルモンドは、手を伸ばせば掴めるところにいる、アロンツォや、ドナテッラに、激しい怒りを抱え続け、比較的穏やかだった彼は、落ち着きがなく荒々しくなり、王都に着く頃には、憔悴しきっていた。
ジェラルドは、今エルモンドを1人にしたら、死を選んでしまうのではと心配になり、エルモンドの自宅に泊まることにした。
ロゼッタが亡くなった日から、1か月が経ち、王都では裁判が始まった。裁判には、ロゼッタの父親と、兄2人が、傍聴に来ていた。
エルモンドとジェラルドは、ロゼッタを守れなかったことを、家族に詫びた。
「モンティーニさん、ロゼッタ様の護衛騎士をしていました、ジェラルドです。こっちは、エルモンド。お嬢様をお守りできず、申し訳ありませんでした」
エルモンドとジェラルドは、深々と頭を下げた。
「もういいです。どうか、顔をあげてください。ロゼッタの父で、ピエトロ・モンティーニです。こっちは、息子のディエゴとアルロです。娘たちから、お二人のことは聞いています。平民の姉たちにも、とても親切にしてくれたとか。ロゼッタは、あなたたちを慕っていて、幸せに暮らしていると聞きました。ロゼッタに優しくしてくださり、感謝いたします。あなたたちが、悪いわけじゃないと、頭では分かっているのです。だけど、どうしても、お二人の顔を見ていられません。申し訳ない」
「重々承知しています。お気になさらないでください。もし、今後、ルドベキアへ避難されるのでしたら、仰ってください。護衛をつけます」ジェラルドが言った。
「ありがたい話ですが、護衛など、我々には必要ありません」
「ロゼッタ様の希望なのです。ご家族を無事に、ルドベキアへ送って欲しいと、頼まれました。ですので、遠慮なく声をおかけください。騎士たちは皆、ロゼッタ様のことを、慕っていたのです。喜んで、護衛の任に就かせていただきます」
「分かりました。何かあれば、その時は、よろしくお願いします」
「では、私たちはこれで、失礼させていただきます」
少し離れたところの椅子に、エルモンドは座り込み、頭を抱えた。
愛する人の父親に会ったというのに、自分を紹介してくれるはずの、ロゼッタは隣にいなくて、大事な娘を守れなかった、愚かな男がいるだけ。一言も喋れなかった。
「エルモンド、仕方がないさ。あまり気にするな」
「会って数秒で、父親に嫌われる恋人なんて、そうそういない、笑い話にもならない」エルモンドは、乾いた笑いをこぼした。
「エルモンド……」
アロンツォたちと一緒に捕らえられた若い3人の神官は、事件との関わりが薄く、無期限の謹慎処分を言い渡された。
そして、ファンファーニは、全てを知っていて、事件に加担した罪で、終身の苦役刑となった。
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