青葉の盛り

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 仕事が忙しいということは、良いことなのか?  わからない。役職が上がれば、給料が増える。当たり前のことであるが、同時に責任を負うことになるし、業務の範囲も広がる。初めてみる景色にあたふた、てんやわんや。要領が掴めないうちは、若手の頃のように、早出、残業でカバーすることになる。  生活のための仕事が、仕事のための生活になっている。そんな気がする。だってそうじゃないか。朝のまったりタイムは、こうして職場でデスクワークをしつつハーフワークタイムにすり替わっている。  まあ、昇進した際に、我が家の女神がいたく喜んでくれたので、よしとしたいところだ。 「おはようございます」  自分以外、誰も存在し得ないオフィスに響いた大音声(だいおんじょう)に、びくりと肩が震える。振り向くと、昇進してから抱えた部下が頭を下げていた。 「おはよう。早いね。まだ始業前だよ?」  ちなみに早出は公には認められていない。 「あ、いえ、課長がこうして早く来ているって聞いて。自分はまだまだなんで、仕事を教わりつつ、少しでもお手伝いできればと思いまして」    意外な理由で思わずきょとんとしてしまう。同時に、少しだけ嬉しかったりする自分がいる。公に認められていなくても、意欲のある者のやる気を殺ぐようなことはしたくない。  部下と二人でコーヒーを飲みながら、仕事に打ち込む。まあまあ、悪くないのである。
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