紅葉の悟り

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 我が家の食卓も、年を重ねるにつれて大きく成長していく。というか、まあ、家そのものが変わっているのだが。  ローンで購入した庭付き一戸建ては、定年前になんとか返済の目処がついた。出来なければ事故を装って、保険金を下ろしてもらおうかと本気で考えていた。まあ、保険金が下りた時、自分はこの世にいないのであるが。  テーブルに四人分の朝食が並んでいる。私と妻と、長男と長女だ。長男は三年前に地元に帰って就職した。志望していた大手ではなかったが、地域に根差した中堅どころの企業に就職した。一年目は辞めたい、辞めたいの繰り返しで、なんとか一年頑張れ、と背中を押してきた。二年目の夏ぐらいから辞めたいのやの字も聞かなくなり、今では家でも仕事をしている。  娘は看護師を目指していて、看護学校を卒業しだい、家を出て恋人と同棲する予定だ。おっとりとした性格だが、とても爽やかな風貌で、こんないい子がうちの娘の恋人で良かったと舞い上がったほどだ。しかし、すでに尻に敷かれていて不憫になる。  朝食の後にコーヒーを飲む。私はカフェオレ。もう歳だ。好きなものを飲んで生きていこうじゃないか。妻のブラック、長男の微糖、娘のミルクティー。  私のまったりタイムは、見事に受け継がれてしまった。
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