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「その沢田って女がさぁ、会社のお偉いさんの姪?だっけな?娘?だったかな?で、権力使ってうちのオーナーをがんじがらめにしようとしたわけ!まぁ、分からなくもないじゃん?うちのオーナー、超イケメンだしさぁ、でも、カッコいいのが、こっからなのよ!課長だった役職とか、全部捨てて脱サラ!しかも恋人の為だぜ?真似出来ないだろ?オーナーが退職届出した途端に沢田って奴はかなり引き止めたみたいだけど、結局最後は身を引いたらしいんだよ。金の匂いがしないイケメンに用はないって感じ。マジで沢田超怖くない?でもさ、オーナーは金の匂いしないどころか、この店が大当たり!サラリーマン時代より、遥かに稼いでるんだよ!俺が店長ってのもあるだろうけどねぇ〜」
男はベラベラと饒舌にカウンターに座る客に話を聞かせる。
客の青年は顔を引き攣らせながら、ケーキにフォークを刺して口に運ぼうとした。
「なんたって、このバリスタ大会で優勝経験ある俺が立ってる店だから当然と言えば当然」
「そのへんにしたら?」
「はい?」
得意げに語っていた男は眉根を寄せて声の主に振り返った。
「悠二くんっ!おはよ」
「おはようございます。忍さん、お客様、困ってますよ」
「へ?そんな事っ!」
カウンターに座っていた可愛らしい顔の青年は 悠二の言葉のおかげで、席を立ちそそくさとレジに向かっていた。
「あっ!ちょっ!待ってっ!」
カウンターから身を乗り出したが、客の青年は店を出て行ってしまった。
ガックリ肩を落としたのは柿田忍。この店の店長で、名の知れたバリスタだ。
「超好みだったのになぁ〜」
大きな身体を折り曲げてカウンターに頬杖をつく柿田。彼は隠さないタイプのゲイである。
「忍さんは黙ってコーヒー淹れてれば普通にモテると思いますよ?」
レジでお金を数える関悠二はカウンターで項垂れる柿田に苦笑いする。
関はこの店の社長ポジションであり、同時に事務関係諸々幅広く管理を任された男だ。
一年前までは、店にもスタッフとして立っていたので、店長の柿田を良く理解していた。
「黙ってりゃって、俺は置物じゃないよ?」
げんなりという風に肩をすくめてみせる柿田。
いちいち動きがアメリカナイズされて見えるのは彼が帰国子女だからだろう。
そのせいか、彼に控えめといった言葉はあまり通じなかった。
「今日はオーナーと一緒じゃないの?」
今度はニコニコと笑顔で関を覗き込んで来る。
「一緒ですよ。車で待ってくれてます。銀行に売上入金に行くので」
「ふぅ〜ん…相変わらずラブラブなんだねぇ〜、この店名通り愛されてる」
関はチラッと柿田を見て、顔色を変えずに言った。
「ラブラブですよ。俺は守さん以外考えられないし、守さんもそうです。忍さんもフラフラしてないで、一人に絞れば良いじゃないですか」
札束をトントンと机で打ちつけ角を揃えた関は入金袋に札を入れる。
「一人ねぇ〜…今は可愛い子が沢山居るからなぁ〜、一人に絞るのは勿体無いよね」
コテンと顔を寝かす柿田は悪びれない。関は小さく溜息を吐き、柿田の前に足を運んだ。
一枚の履歴書をピラリと柿田につきつける。
「人手が足りません。バイトの面接、今日13時から一件。店長に任せますんで、見極め宜しくお願いしますね。じゃ、俺はこれで」
「13時ね!オッケー。オーナーに宜しくぅ〜」
関は小さく会釈しながら店を出た。
柿田という男、見た目は申し分ないイケメンで、バリスタの大会では優勝経験もある業界では有名な男だ。ただ、色恋にだらしないのが玉に瑕で、関はそれがどうにも気にかかっていた。
店の前にとまった高級車で関を待っていたオーナーの宝井は戻って来た関の顔色を見て苦笑いする。
「また忍が何かやらかしたか?」
「いえ…なんて言うか…勿体無い男だなと」
「ハハッ!まぁ、そこが良いとこでもあるからな、アイツは。それより、忍に惹かれたりしてないだろうな」
宝井は関の顎を掬う。
「まさか…俺は守さんだけです。知ってるでしょ」
「知ってるよ〜。でも、言わせたい」
キヒヒッと少年のように笑う宝井に関はギュッと胸をときめかせていた。
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