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2 客の数が減った午前11時という何とも中途半端な時間。 柿田は客席側のカウンター席で長い足を組みながら関から手渡された履歴書を眺めていた。 「大学生かぁ…青春真っ只中っすなぁ〜、しかし、好みじゃねぇわ」 写真に写っていたのは冴えない大学生男子だった。 柿田はポイと履歴書をカウンターに滑らせ、興味なしとばかりにカウンターに突っ伏した。 それから、しばらくすると、飲食店にとって多忙な時間がやってくる。 カフェといえど軽食は用意するわけで、オシャレなブルックリンスタイルの店内が手伝って、店はいつもOLやランチを楽しむママ友など、主に女子を中心に賑わっていた。 12時を過ぎて、猫の手も借りたい状況の中、一人の青年が入店してきた。 女の子と間違うくらいに目が大きく、身体の線が随分と華奢だ。厨房にいた柿田はすぐその存在に気づいたが手が離せなかった。 青年はホールスタッフと何か話している。申し訳なさそうに頭を下げたりと、気になる行動に柿田は集中力を削がれた。 「店長っ!あのっ!」 大学生バイトの新名一真(ニイナカズマ)が厨房に顔を出した。 「新名今すっげぇ忙しいけどっ!」 バタバタしながら新名に向けて顰めっ面を寄越す柿田。 「いや、あのっなんか面接で来たらしいんすけど」 「面接ぅ〜?」 柿田は手にナポリタンを調理中のフライパンを止めて腕時計を確認した。 「早くね?」 怪訝な顔をしてロングエプロンで手を拭う。 「新名、面接は13時か…ら」 柿田はフロアに降りてカウンターの一番隅に座った青年に言葉を濁した。 新名は慌てた様子で柿田に告げる。 「すんません、この子です!俺、向こうのテーブルにランチプレート待たせてるんでっ!後、お願いしますっ!」 「えっ!あっ!おいっ…」 新名に声は伝わらず、店内は混み合った時間。 カウンター席の端に身体を丸めて座る彼はまるで追い詰められた小動物のようだった。 「あの…面接なんだけどさ」 遠慮がちに顔を覗き込む柿田。 「ぁ…あのっ!すっすみませんっ!俺っ!あのっ!」 「あぁ…悪いんだけど、ちょっと時間待てる?面接、13時からだったはずなんだよね」 カウンターに座る彼はみるみる青ざめていく。 「えっ!?あのっ!ごめんなさいっ!俺っ!」 柿田は頭を掻きながら腰を折り、カウンターに座る小さな彼の顔面に近づいた。 「あっのさぁ、一つ聞きたいんだけど、君、履歴書の子じゃなくない?俺、目は良いんだよね」 「ひっ!」 青年は肩を窄めて縮こまる。 「じ、実は…あの、と、友達がっ…やっぱやめるからお前行けって…言われましてっ…」 「はぁ?…まぁいいや、ここに居て。もう少しすれば落ち着くから」 「はっはい」 柿田は一度厨房に入ってコーヒーを淹れ、カウンターに突き出した。 「えっ?…あのっ」 「飲んで待ってな」 柿田が微笑む。 「は、はいっ!」 パァッと明るい顔になった彼の瞳は、顔の殆どをしめるくらい大きかった。
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