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柿田の住むデザイナーズマンションの一室。
朝陽が燦々と降り注ぐ。
ベッドの頭をベランダ側にしているせいで、目覚ましなしでも太陽に起こされる。無頓着なのか、窓にはカーテンがかかっていない。異様に物が少ない部屋は彼の明るい性格に反してもの寂しい雰囲気だ。
柿田は上半身を起こし、欠伸をしながら伸びをした。
「今日からヒナが出勤!楽しくなりそうだなぁ」
柿田の好みにピッタリハマった宮野雛士は完全に彼にロックオンされていた。
低身長、童顔、可愛い系、そして性別は男だ。
鼻歌を歌いながらシャワー浴びて、鏡の前で少し長めの髪を後ろで縛った。
「よしっ!早めに出勤しよう!」
鏡に向かってうんうんと呟く。
柿田は手早く着替えを済ませて家を出た。
「おはよ〜」
「ちぃ〜すっ」
「店長おはようございまーす」
店内に入ると次々と挨拶される柿田。
スタッフルームに入り、自分の淹れたコーヒーが入ったマグを手にPCを立ち上げる。
その姿が女性スタッフからは堪らない映画のワンシーンのように輝いて見えた。
「店長かっこぃ〜」
柿田は感嘆のため息を聞いてクルッと振り向く。
「何々?!俺がカッコイイって話?さっすが皆んな、見る目あるねぇ〜っ!男はやっぱ色気がないといけ」
「あ、私ゴミ出しあったんだ!」
「あーっ!私看板書き換えないとっ!」
次々に女性スタッフがスタッフルームを出て行った後、入れ替わりで関が入って来た。
「あっ悠二くんっ!おはよ!なぁんで皆んな俺が喋り出したらどこか行っちゃうのかなぁ?」
デスクに後ろ手をついてそこに腰かける柿田は一口コーヒーを口に含む。
「俺は何回も言ってますよ。忍さんは黙ってれば」
「モテるのにぃ〜って?」
関は肩を竦めた。
「それより昨日の面接、どうでした?使えそうな子でしたか?」
「ぅゔ〜ん、まぁ、色々あってさぁ、違う子を雇う事になったよ」
関はあんぐり口を開けて驚いてみせた。
「どーやったら違う子が出て来て、その子を雇うっていう流れになるんです?」
「それがさぁ〜」
柿田はクスクス笑いながら昨日の事を関に話して聞かせた。
「はぁ…まぁ、流れは分かりましたけど、最初来る予定だった奴は最悪ですね。友人に面接行かせて、挙句時間まで間違えて伝えるなんて。たまたまその子がここで働きたかったって言う子で良かったですよ。で、いつから」
「お、おはようございます!」
関が話している最中にスタッフルームに入って来た小柄な青年。身長は160ほどだろうか。
「ヒナっ!おはよう!」
柿田がすかさず雛士の肩を抱く。
関はそれを見てこの子か…と納得した。
柿田の好みど真ん中といったところだからだ。
「おはようございます」
おずおずと挨拶する青年の大きく溢れそうな瞳は青みがかった淡いグレーで、日本人離れした柿田とは随分とバランスが悪く見えた。
「初めまして。社長兼事務の関悠二です。」
手を差し出すと、小動物を連想させる彼はゆっくり関の手を握り、優しく微笑んだ。
「は、初めまして!宮野雛士です!宜しくお願いします!」
関は思った。随分甘い子を選んだもんだと。試すように一歩近づき、雛士の肩に手を掛けて耳元で囁いてみる。
「こちらこそ。分からない事は何でも聞いてください」
すると、後ろに立っていた柿田がグンと雛士の身体を後ろに引いた。バランスを崩した雛士は柿田の腕の中に背中から倒れこむ。
バックハグ状態で柿田は向かいに立つ関に言い放った。
「オーナーにいいつけちゃうよ〜」
関はクスクス笑う。
「それは困ります。あの人は思ってるよりやきもち焼きなんですから」
「ふふ、知ってるよ〜。だからさ、この子にはちょっかい出さないでよ、悠二くん」
関はジッと柿田を上目遣いに眺め、返事を返した。
「仕事に手は抜かないで下さいね。俺が守さんに叱られるんだから」
「俺だよ〜?抜くわけないじゃん!」
雛士は何が何やら分からないとばかりに、関と柿田を交互に眺めた。
関はスタッフルームにある書類の山を手にする。
「お願いします。じゃ、俺はこれで」
「えぇ〜もう行くのかよ。悠二くんが居ないと遊んでくれる人居ないんだぜ?」
そう呟く柿田を煽るように眺める関。
「居るじゃないですか?今、忍さんの腕の中に良い玩具が」
不敵に笑うと、柿田は一瞬目を丸くした。そして、バックハグ中の雛士を見下ろし、ニッと関に微笑んだ。
「玩具だなんて、酷い人だなぁ〜、ねぇ〜、ヒナ!」
雛士は柿田を見上げ、訳がわからないままに苦笑いする。
関は、雛士を押しに弱いタイプだと悟り、余計に心配になりながら、スタッフルームを後にした。
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