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柿田に抱きしめられたままだった雛士は遠慮がちに呟く。
「あ、あの…タ、タイムカードを」
「あぁっ、そうだったね。こっちだよ。」
柿田はズラリと並んだ灰色の良くあるロッカーの前を通り、部屋の奥にあるタイムレコーダーを案内した。
白く小さな手に握ったカードを横目に柿田は目を伏せる。
参ったな…良く似てんじゃん
心の中で呟いたら、パンと手を合わせた。
「さっ!着替えてフロアに出ようか!」
柿田は雑念でも振り払うように笑顔で髪をかき上げた。
雛士はそんな柿田をポ〜ッと赤らめた顔で見上げてくる。
「ん?どうかした?」
柿田は雛士を見下ろす。
「かっ!柿田さんて写真より本物の方がずっとカッコイイですね!俺、バリスタの記事で見た事あって!」
「…あぁ…そっか、うんうん、俺ってカッコイイよねぇ〜っ!アハハ!ヒナはとっても可愛いよ〜!」
頰に手を伸ばすと、雛士はビクンと肩を窄めて驚いた。いちいち反応が女子よりも可愛い。柿田は「困ったな…」といつものおふざけを出し切る事ができなかった。
店の前でいつものように関の戻りを待っていた宝井は車から出て、車体に体を任せタバコをふかしていた。
書類を両手に抱えるように持った関を見て、ふっと笑顔が溢れる。
「大丈夫か?手伝う」
「大丈夫です。今離したらバラバラになりそうなんで、後ろ、開けて貰えますか?」
宝井は急いで咥えタバコをして、後部座席のドアを開けた。
ドサっと書類をシートに置き、フゥッと息を吐く関。
「重いなら呼べよ。」
「これくらい俺でも持てます。」
「俺はおまえを甘やかしたいんだが?」
小首を傾け視線を合わせてくる宝井に関は頰を染める。
「十分甘やかされてます」
「夜の話じゃねぇぞ」
「わっ!分かってますよっ!それよりっ!」
「ん?なんだぁ?」
運転席に腰をおろしながら宝井は隣に座った関に目をやる。
「忍さん、面白い玩具を手に入れたみたいですよ。すっごく小柄なぁ〜…小動物みたいな子で」
関の言葉に宝井は少しだけ遠い目をして、紫煙を燻らせた。
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