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6 「どうかしました?」 少し考え込んだように見えた宝井の表情に関は声をかける。 宝井は灰皿にタバコを捩じ込んで優しく関に微笑んだ。 「いや、何でもない。今後が見ものだな」 「全くです。可愛かったし、逃げ出さなきゃ良いけど…」 関の呟きに宝井はハンドルを切りながら問いかける。 「タチの頃だった血が騒ぐ?おまえ、本来ならあっちだったしな」 「可愛かったって言ったから、ヤキモチですか?」 「違うとは言わないよ。」 クスクス笑う宝井は相変わらず口にした言葉と態度が合っておらず、大人の余裕の中でいつまでも遊ばれているような関は頰を膨らませた。 「守さんは何か知ってるんでしょ?忍さんの事!あの人、色々謎過ぎるんですよ」 助手席の可愛い恋人の膨れ面に人差し指を差し込んで宝井は満足そうに運転を続ける。 「忍は見た目からしてミステリアスで、いかにも近づいちゃダメなタイプだからなぁ…まぁ、それなりに色んな経験はしてるさ。一つ言えるのは…アイツ、傷を抉るタイプみたいだな」 「うわぁ…また意味深な…」 関は眉間に皺を寄せて煙たそうな顔をした。 「で、ここが食器棚。ストックはバックヤード。割った時なんかはここに塵取りがあるから手早くね。」 柿田はロングエプロンを腰に巻きながら順番に店内を説明して歩く。 後ろをついて歩いてくる雛士は散歩に慣れない子犬のようだった。 そこへバイトの新名がやって来た。 「店長、おはようございます!バイトくんの事、俺が預かりますよ。」 「おはよう、新名。」 「ニイ…ナ?」 小さなメモ帳を両手に握りしめながら口元をそれで隠し目の前に立った新名を見上げる雛士。 「初めまして…って会うの二回目だよな。面接ん時!ニイナは俺の名前だよ。珍しいだろ?新名一真(ニイナカズマ)宜しく」 「初めましてっ!あ、じゃない…ですね!あの時はお世話になりました!宮野雛士ですっ!宜しくお願いしますっ!」 雛士は深々と頭を下げた。 「新名ぁ〜、空気読めよぉ〜」 「は?なんすか?空気って。店長が可愛い子が好きなのは勝手っすけど、あんまり贔屓すると、雛士が女子に嫌われちゃいますよ〜」 新名は口を尖らせた。 「うわっ!新名ったらもうヒナの事、雛士とか呼んじゃって!コミュ力爆発かよっ!コミュキングかよっ!」 柿田はちょけるようにぶりっ子ポーズで体をクネクネさせた。 新名はそれを白い目で眺めて雛士の肩に手をかけ連れていこうとする。 柿田はその小さな後ろ姿を眺めてフと微笑んだ。 「スタッフとは仲良くして貰わなきゃだしね。辞められちゃったら寂しいもん」 独り言を呟くと、カウンターの中に入り、エスプレッソマシンに手をかけた。
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