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チェリッシュがカフェの看板をBARに切り替える時間が来た。
柿田は相変わらず忙しそうにカウンターの中だ。
「新名ぁ〜、俺もホールしたいなぁ…ずっとここに居たらさぁ〜、鳥籠の鳥みたいじゃん」
カクテルグラスを布巾で磨き後ろの棚に片付けながらボヤく柿田。
「何言ってんすか。カウンターだから客口説けるんでしょ?今までそこにいるから何人もお持ち帰り出来てるんだし!」
新名は呆れた顔をしてロックグラスの氷を鳴らす。
彼の勤務はカフェをクローズした時間で終わっていて、一杯やってから帰ろうとカウンターに座っていたのだ。
「何人もって…そんなにだよ?」
ニッコリ笑う柿田に「はぁ…もういいです。どーせホールでも同じですから」とため息を返す。
「それから店長」
新名は重い口を開く。
「今日みたいに雛士に構いすぎるのはやめて下さい。マジで女子スタッフが嫌がらせとかしかねないから」
「そんな奴居たら辞めて貰えばいいんじゃない?」
「簡単に言わないでくださいっ!人手不足で雛士を雇ったんですよ!」
「…やけにヒナのこと構うね。もしかして、新名ぁ〜」
「俺は違いますっ!同じサークルのみのりちゃん狙ってるんで!」
ロックグラスをグビッと傾け喉を揺らす新名。
「…だってさぁ〜あんなに可愛いんだもん。ちょっかい出したくなるよ。男の性だよ。」
「仮にも店長なんだから性とか言わないでくださいよ!理性働かせまくって下さいよっ!」
「えぇ〜、だってぇ〜」
「子供かっ!」
「おっ!ナイス突っ込み!」
「また茶化すっ!」
「あはは、新名も大概揶揄いがいがあるよね!」
柿田は、いつもチャラチャラ、何が本音なんだか全く分からない。新名は性格上白黒ハッキリしたいタイプのせいか、柿田の事を理解出来ないと思う事は多くあった。
「とにかく、控えめにお願いします!俺が雛士を放って置けないのは、店長とは別の意味ですからね!」
「別?…って何?」
新名は質問を返されて戸惑った。
「何って…だから…まぁ、ほら、辞められちゃうと忙しくなるっつーか」
モゴモゴと口籠る新名を眺めて、目を細める柿田。
「…分かったよ。気をつける努力をする」
「そこは気をつけるって言い切って下さい!」
「あはは!だってぇ、俺、結構マジでヒナ狙ってるから…恋愛は自由っ!でしょ?」
新名の顔面にズイと近づいて鼻先をチョンと撫でた柿田は相変わらず良い加減な調子で笑った。
それでも、一瞬目の前に迫った柿田の目が言葉にはしないまでも、「俺の獲物だ」と牽制したのに気づいた新名は口角をひくつかせながら、体を反らせた。
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