カリビトノキジヒコ

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カリビトノキジヒコ

 キビの村から東へ五日ほど経たところにカリビトノキジヒコが住むと言われるオクの里がある。  オクの里も昔は鬼に支配されていた時期があり、やはりスサによって解放された地域だ。  キジヒコはスサとともにオクの里を解放したとも言われているが詳しいことはわからない。  ただ、カリビトノキジヒコはスサと同じくイズモの国の出身らしい。弓の腕はスサよりも優れており、その弓で多くの鬼を討ち取ったということだ。 「ようやく見えてきたぞ。あの山の奥にオクの里がある」  山道では足元ばかりが気になるが、イヌキが指さす方向に視線を移す。「オクの里、一万尺の彼方」と言われるようにその里は高い連山の中にある。 「まだ登るのか? 昨日からずっと縦走しているのだが……」 「まぁ、確かに遠いし、険しい。しかし、鬼を退治するためにはカリビトノキジヒコの力は必要だ。もう少し頑張るとしよう」  イヌキは相変わらず前向きだ。 「おや?……」  前を行くイヌキが止まる。 「どうした? 何かあったか?」  足を止めて、ここぞとばかりに水筒の水を一口含む。 「いや、何か人影があったような……」  周囲を見渡すものの、木ばかりである。足元は石が多い。まだ標高が低いため植生はあるが、もうしばらくすると大きな樹木はないだろう。  石や樹木には苔や蔓が巻き付いており、人間が残した痕跡などはない。原生林といったふうだ。 「人か……。ここに人がいるとなるとキジヒコぐらいではないのか? しかし、聞き及んでいるオクの里までは距離がある。何かの見間違いか……」 「そうだな。動物とか……熊や猪だと良いな。今夜は豪勢だぞ」  イヌキが眩しく笑う。こちらもつられて笑顔になる。  あの日以来なかなか笑えるものではなかったが、旅という新しい環境と生来明るいイヌキのお陰で少し笑顔が出るようになった。 「キビ団子を与えて仲間にしてはどうだ? 何かと便利かもしれないぞ?」  イヌキがお道化る。 「いやいや。動物にはキビ団子の意味がわからないからなぁ……」 「それもそうだな」  しかし、先ほどから何かしらの視線を感じるのは確かだ。それが人間のそれなのか、動物の気配なのかはわからなかった。 「そう言えば、人食い熊がいるという話だったな。案外、そいつの仕業だったりして」  イヌキが思い出したように言う。今朝立った村での話だ。村の猟師もこの山の付近には近づかないらしい。実際に人が襲われるという被害にあったわけではないが、そのような噂が立つほど大きな熊ということだろう。  オクの里は鬼の支配から解放されはしたものの、その厳しい環境から人は住まなくなってしまった。  ただ、キジヒコだけがそこに残ったという。 「人食い熊か。まぁ、その時は討ち取ってイヌキに調理してもらうさ」 「熊の肝を喰うと長生きするらしいぞ」  長生きする楽しみのあるヤツはそう言うのか、それともたいだいの人間は長寿を期待するのか。今の自分はそのどちらでもないような気がした。 「そうか。楽しみだな……」  自分としては少し歯切れの悪い返答になってしまったが、イヌキは気にせずに前進する。  しばらく行くと橋がある。吊り橋だ。下の方を覗くとそこそこに高いのがわかる。落ちれば命がないぐらいには高い。  イヌキが吊り橋を点検する。 「新しいわけではない。しかし人が手入れした形跡がある。それが村人なのかオクの里のキジヒコなのかはわからないが……」 「わかった。ここからは俺が先頭を行こう」 「……立ち去れ……」 「ん? イヌキ、何か言ったか?」 「いや、俺はモモタケルが何か言ったのかと思ったが……」 「……早く……立ち去れ……」  素早く腰の刀に手を掛ける。イヌキは既に抜刀しており、周囲を警戒している。  声は聞こえる。しかし、姿は見えない。 「分かるか?」  「いや、それらしい気配はない……」  イヌキにも分からない。  ふと橋の向こうを見ると大きな熊がいる。二本足で立っているが人間よりも大きい。あれが例の人食い熊か。  気が付くと周囲は霧が立ち込めていた。 「……早く立ち去るのだ……」  そう言うと大きな熊は後ろを振り向き、ゆっくりと霧の中に消えていった。 「今回は襲撃されなかったみたいだな……しかも人語を解するとは」 「モモタケルよ、あれに勝てるか?」  熊の毛や肉は刀を通さないと聞く。ましてやあれほど大きな熊だ。 「手こずることはあるとは思うが……」 「二人でやればいける。か?」 「あのような熊のいる場所にキジヒコは住んでいる。キジヒコにできて我らにできないという道理はない。その逆もあるが……」 「モモタケルらしい回答だな」  とくかく先を急ぐため、吊り橋を渡る。確かに手入れがされている。これは普段から使用する者がいるということだろう。  油断したのかついつい下を見てしまった。その高さに少し肝が冷える。   しばらく行くと今度は左は崖、右も崖。人一人が辛うじて通れる程度の断崖に出た。俗に言う切戸だ。 「ここはバランスを崩すと落ちるな。慎重に行こう」 「イヌキ。この縄を持っていてくれ。気休めかもしれんが命綱というやつだ」  イヌキに命綱を託して切戸に挑む。 「……立ち去れと言うのがわからないのか……」  また、あの声だ。  切戸の向こうに大きな熊がいる。周囲には霧が立ち込めている。先ほどの吊り橋と同じだ。 「私はキビツノモモタケルだ。カリビトノキジヒコに用がある。なぜ我らの行く手を阻むのか?」  熊は応答しない。 「なぜ我らの行く手を阻むのかを訊いている!」 「……」  何か発しているようだがよく聞き取れない。 「……キジヒコはお前たちとは会わぬ……」 「キジヒコを知っているのか?」  熊はキジヒコと言った。この熊はキジヒコを知っている。 「……立ち去るのだ……」  そう言い残すと霧の中に溶けるようにして消えた。熊がいなくなると周囲の霧も晴れる。 「あの熊、何かを知っているようだな」 「今回も襲ってこなかったが……。次はわからないな。警告は二回されたわけだし。三度目の正直という言葉もある」  二度あることは三度あるとも言うが。しかしイヌキは妙なフラグを立てるクセがあるようだ。今はそれに言及せず、先に進むことにした。 「モモタケル、こいつ…刀が通らぬぞ!」  だから言ったのだ。フラグを立てるなと……。  結局、我々は大きな熊……人食い熊との戦闘に陥っている。イヌキの言う通り、三度目の正直と言うやつだ。あの切戸を抜けた後、少し開けた場所があったのだが、例の熊はそこで待ち受けていた。  警告はなかった。問答無用で襲ってくる。  巨躯のためかその動きはそれほど速くはない。むしろ鈍重と言っても良い。しかし、その防御力がハンパではない。刀での攻撃はほぼ通用していない。その理由はその皮膚だ。  分厚く硬い。  これではいくら斬りつけても傷を負わせることができない。  それに防御力だけではなく、攻撃力もハンパではないのだ。  その要因は身長の高さである。イヌキと私の身長は全くの平均。高くもなく、低くもない。  この熊は二本足で立つと我々の頭五つ分は高い。そのため、その攻撃は全て上から下に繰り出される形になる。体重も乗っているため、攻撃力は高い。幸いその動きが速いとは言い難いため、当たらずに済んでいる。  しかし、一発でも当たれば致命傷となることは間違いない。 「イヌキ! 天枢で熊の気を逸らす。その隙に……」  皆迄は言わない。この熊は人語を解す。迂闊なことは言えない。が、イヌキには伝わっているはずだ。  私が熊の気を逸し、イヌキが背後から首を狙う。さすがに首は急所であろう。 「行くぞ……天枢……」  スサが伝える剣技はいずれも体に大きな負担を強いる。天枢もその例外ではない。足捌きが独特であり、相手を翻弄することに長けるものの、当然ながら足への負担が大きい。ましてやここまで険しい山道を通ってきたのだ。そう何度も出せる技ではない。 「イヌキ!」 「よし!!」  イヌキも天枢を使用して熊の背後に回り込む。 「え!? えーと……」  イヌキの動きが一瞬止まる。  熊がイヌキの方に向かって振り返る。  その時だ。霧が立ち込めており、気付かなかったが我々は崖の近くで戦っており、あと一歩で落ちる寸前の所にいる。  熊が振り向きざまに出した一歩は地面ではなかった。勢い、崖から落ちる態勢になる。勝負としてはあっけない、と思った瞬間…… 「モモタケル! 熊の背中に人間の子供が乗っているぞ!」  振り返った熊の背中が目に入った。確かに人間の子供が熊の首辺りに掴まっている。しかし、熊はバランスを崩し、落下しようとしている。  私は子供の襟首に手を伸ばした。  届いた。しかし、安堵するのはまだ早い。このままでは熊とともに落下してしまう。 「モモタケル!」  イヌキの手が私の左腕を掴む。  私が子供を、イヌキが私を掴む形になった。これで落下せずに済む……はずもない。  子供は熊を掴んでいるのだ。子供が熊を掴んでいる以上、落下は必至。 「俺は離さぬ!」  こちらはまだ何も言っていないがその子の意志は伝わった。離す気がないらしい。 「いかん! 童よ、手を離せ!!」  イヌキの忠告も虚しく、我々は熊たちとともに谷底に落下することになってしまった。  朝か? いや違う。  どれくらい時間が経ったのだろうか? 日は傾いてはいるものの、沈むにはまだ時間がありそうだ。  落ち着いて来ると自分達が今、沢にいることに気づく。サラサラと流れが耳に心地よい。キビの村の山間の小川を思い出す。ヤマメがたくさん釣れた。  いやいや……今はそれどころではない。たしか熊と戦っていて崖に落ちたのだ。イヌキ、熊に掴まっていた人間の子供、そして熊……。  近くにいるはずである。 「イヌキ。起きろ」  イヌキは直ぐに見つかった。外傷はない。よく見るとイヌキは色白で睫毛が長く、女の子のような顔をしている。これを世の人はイケメンというのだろう。  しかし、何か扇情的なものを感じる。いやいや、私はノーマルだからそのようなことは―――    心の葛藤が続く中、イヌキが目を覚ます。 「ああ、すまぬ。ここは?」すまぬのは私の方かもしれないぞ、イヌキ。 「どうやらあの時、熊たちと一緒に崖下に落ちてしまったらしい。幸いにしてここは沢のようだから落下の衝撃を少しは和らげてくれたのかもな」  イヌキと熊たちを探すと程なく見つかった。 「子供だな」 「ああ、子供だ。しかも女の子のようだ。イケメンというわけでは……」  余計なことは言うまい。このネタはイヌキの気分を害する。  熊も直ぐそこに横たわっている。やはり大きい。 「ああ……キムヌ……。!? キムヌがおらぬ!?」  子供は目を覚ますと謎の言葉を発するが、おそらくキムヌとはあの熊のことだろう。 「熊はそこだ。死んではいない。気を失っているだけだ。それにしてもお前は誰だ?」 「俺は……」  子供の名はスクナノミコトと言うらしく、キジヒコの孫とのことだ。オクの里にはアメノカガミノフネという舟があり、それを鬼たちから守るためにキジヒコはオクの里に残ったという。  アメノカガミノフネはキジヒコがイズモからこの地に来る際に使用した舟のことのようだ。 「しかし、じじさまはもう動けぬ。だから俺が代わりにオクの里を、いやアメノカガミノフネを守ることにしたのだ。この辺は治安も悪い。お前らのことは盗賊だと思っていた」  我らの進入を拒んだ理由も判明した。問題はあの熊だ。 「あれはキムヌという俺の式神だ。あれでも知能は高く、人間の何倍も生きている」  私は事の経緯を説明した。鬼が再び現れキビの村が壊滅したこと。鬼は鬼ヶ島におり、舟がなければ退治もできないことを。 「じじさま達が使用していた舟を使えばその鬼ヶ島にいけると思うが……」  スクナノミコトは少し言いよどむ。 「舟というのは少人数では扱えない。それにアメノカガミノフネの操舟術はカリビトの一族ではなく、ショウジョウの一族しか知らない」  ショウジョウの一族。この辺では知恵者の集団というイメージが強い。商売が巧みで富者が多い。イズモからキビ、それよりも遥か西や東のクニと交易をしているという。そのため、舟を扱える者もいるだろう。 「しかし……」  しかしだ。今回我々はカリビトノキジヒコを味方にするためにここまで来た。スクナノミコトの話だとキジヒコは動けないという。 「言いたいことは分かっている。先ずはじじさまに会ってくれ。助けてくれたお礼と誤解していた非礼を詫びたい」  こうしてカリビトノキジヒコが住むオクの里に辿り着くことができた。 「客人とは久しぶりだの」  床に伏せるこの男があのカリビトノキジヒコである。齢は既に七十は越えている。さすがに壮年期のようにはいかないようだ。 「そうか……タケスメラギも……。随分と大変だったようだの」  事の経緯を説明するとキジヒコの目に光るものがあった。 「キジヒコ様、私達はこれから鬼ヶ島に鬼退治にいきます。お力を貸してはもらえませんか?」 「見ての通り、わしはもう戦うことはできぬ。代わりと言ってはなんだが……。スクナノミコトを連れて行きなされ」 「ご令孫を!? 確かに式神を扱う等の能力に長けているとは思いますが……」 「あの子はもう十四です。モモタケル殿が言いたいのはあの年で揺光を習得しているかということでしょうな……」  無論である。カリビトノキジヒコの弓。あのスサよりも優れた弓の使い手。八つあるスサの剣技の一つである揺光。正しくは剣技ではなく、弓の技だ。 「心配せずともスクナノミコトは揺光を習得しております。それに……」 「それに?」 「あの子はわしより弓の神に愛されておる。それは保証しますぞ」  キジヒコはにっこりと笑うとスクナノミコトを呼び寄せる。スクナノミコトは庭先でイヌキ、キムヌと遊んでいたが急いで駆けつけた。 「じじさま、どうした? 腰でも痛いか?」  キジヒコが説明するとスクナノミコトも納得したようだ。 「しかし、じじさま。じじさまの世話は誰がするのだ?」 「心配はいらん。ホロケウやアノノカもいる」  聞き慣れない言葉だがどうやらキジヒコが扱う式神の名前らしい。狼と梟のようだ。 「あと大事な話がある……」 「大事な話?」 「スクナノミコトよ。今日からはお前がカリビトノキジヒコを名乗りなさい」 「え!? それって……」  キジヒコがスクナノミコトに弓と矢を渡す。 「これがヤタノユミとヤタノヤだ。これからお前とその仲間の身を守り、立ち塞がる敵を打ち砕いてくれるだろう。しかし、驕りや慢心がある時はこの弓矢を放つことはできない。その時は自らに返ってくることをゆめゆめ忘れるなよ」 「じじさま……」  スクナノミコト……いや、キジヒコは恭しく弓矢を受け取り、その名を継承した。これはスクナノミコトが成人をむかえたことを意味する。  その夜は旧キジヒコ(本当の名はワカヒコという)の庵で世話になることになった。  スクナノミコトの成人を祝ってささやかながらのお祝いをした。仲間の印としてキジヒコにキビ団子を手渡す。 「これで俺はモモタケルの仲間になったんだな? 俺はカリビトノキジヒコだ。よろしく頼む!」 「ああ。共に鬼を退治してくれよう!!」 「……イヌキ。多分、それ私の台詞……」 「さぁさぁ。今日はめでたい! これを飲んで下され」  ワカヒコが秘蔵と言って勧めてきた酒を飲み始めてからの記憶は曖昧だ。  その夜半である。ふと目を覚ますとワカヒコが庭で月を眺めていた。イヌキ、新キジヒコ、キムヌはぐっすりと眠っている。 「ワカヒコ様」 「おお、モモタケル殿。今日は満月です。実に良い」  空には雲一つなく、月が輝いている。霧がせいか少し朧に見える。星はなく、月だけが空に浮いているように見える。 「少し話をしましょう」  ワカヒコは若き日の事を話し始めた。  スサとともにイズモを出陣したこと。その時に使用したのがアメノカガミノフネであり、これが海ではなく、宙を行くものであること。  そして、鬼は狂暴なために討たれたのではなく、その製鉄技術の高さがためにその技術力を恐れられた人々によって滅ぼされたこと。その筆頭がやはりスサであったこと。 「イズモでは人々に稲作を教え、豊かな生活を広めておった。スサはここでもそれをしようとした。しかし、この地域では鬼によって製鉄がなされていた。鉄は武器になる。イズモ人にとって鉄とは暴力の象徴。ましてや鬼達は自分達より身体能力的に優れている」 「まさか、それで……」 「鬼の潜在能力を恐れたスサは先手を打った。それが今となっては正しかったのか分からない。ただ怨恨は怨恨を産んだ」 「そのせいでキビの村が滅びたと言うのですか!!」  そんな理不尽な事があるか! 罪もない鬼を散々に殺しておいて、その挙句に仕返しを受けてキビの村が滅んだのだ! 「落ち着きなさい! それだけではない! 鬼の中に燃えるような赤い目をした一族がいる!」  ワカヒコの口調が強くなる。  燃えるような赤い目の鬼……。それはキビの村を襲撃した鬼だ。 「見たことがあります。キビの村を襲撃した鬼たちです」 「その鬼の一族は人間を食す習慣があった。わざわざ生きた人間を喰うわけではなかったが……」  その光景には見覚えがある。 「キビの村で見ました……」 「それが決め手だ。いつか鬼が食べるために生きた人間を襲うか知れない。そうなってからでは遅い。だからわしらは鬼を殲滅することに決めた。後でわかったことだが、全ての鬼が人間を喰うわけではなかったようだ……。しかし……」  ワカヒコは落ち着いて続ける。 「しかし、タケスメラギとサクヤサヤカがいたキビの村の鬼たち……鬼頭の一族は人を喰う鬼だった」  その鬼達にキビの村は滅ぼされてしまった。 「そうですか……」 「……怨恨は怨恨を産むとは言った。しかしだ。今やキビの村の生き残りはモモタケル殿とサクヤサヤカ殿しかいない。その意味で仇討ちというのはエゴかもしれない。だが、人食い鬼を放置するというのはその地域に住み人間にとって脅威であることに変わりはないのだ」 「だから殲滅も止むなし。ですか?」  少し挑発的な物言いになってしまった。 「……あの時の判断が間違っていたとは思わんよ。それに今回はモモタケル殿たちが自分たちで考えて決めるしかない。いずれにしても後悔のない判断をしてもらいたい」 「……そうですね……」 「……あの判断は間違っていたと思わないが……。殲滅できなかったことについては……すまないことをした……」  ワカヒコは月を見ながら涙を流した。その涙の意味はよくわからない。キビの村の人々に対する鎮魂なのか。罪のない鬼達を皆殺しにした罪の意識なのか。  ……それともただ無常を感じているだけなのか。        
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