16人が本棚に入れています
本棚に追加
「うん。毎日使っているあねたばグッズのペン」
ふで箱も、ペンも、したじきも、全部〈あねたば〉のグッズ、かつ、マシロくんのメンバーカラーの白だ。(ちなみに陽芽が推すツバキくんのメンバーカラーはピンク!)
たぬがペンに触れて、ふうと息を吹きかけると、透けて見えるインクが貝殻のようにターコイズブルーにかがやいた。
「ペンに神性を与えました。このペンを用いて部屋中に解呪式を記します」
「解呪式……呪いを解くための式だね?」
「ええ。冥花からお手本をもらってきましたから、この通りに写せば大丈夫ですよ」
たぬが取り出した紙は、見たこともない文字や模様でびっしりと埋まっており、(これを全部、わたしひとりで書くの!?)とめまいがした。
「葵を助けるためならこれくらい頑張らないとか……」
「葵ですか?」
「うん。莉杏が呪っているのは葵じゃないの?」
「いえ、彼から呪いのにおいはしませんでしたが」
「じゃあ呪われているのはどこの誰?」
「それは、このあと探すのです。放課後までに。いそぎましょう!」
なっ。
解呪師ってブラック企業並の無茶ぶりだ!
結局、解呪式を書き写すのに時間ギリギリまでかかってしまった。
――昼休みが終わっちゃうっ。
【瑚兎がモタモタしているからですよ】
キーホルダーに化けたたぬが小言を言う。正直、お母さんや先生よりもうっとうしいぞ。
教室へダッシュ――のまえに、保健室へ寄り道。
「陽芽。体調はどう?」
ベッドのカーテンを引くと、青白い顔の陽芽がうすく目を開けた。
「瑚兎子また来てくれたのぉ?」
「またって? 今来たトコだけど?」
「昼休み、カーテンの向こうから名前を呼んでくれたでしょお?」
――なんのこと? だってわたしは解呪式を書くので精一杯で、保健室には来ていないのに。
「ふわあ。眠くて返事できなくてゴメンねぇ。てっきり怒っちゃったかと思ったぁ」
「怒ってないよ。なんで……?」
「だって瑚兎子、『ゆるさない』って言ったきりいなくなるんだもん。すこし怖かったよ……」
ぞっとして、うまく笑えなかった。
もしかして莉杏?
それとも……。
【呪いによる生き霊かもしれませんね】
たぬがテレパシーで話しかけた。
――生き霊って、生きた人間の霊?
【あまりにも強い念を持つとあらわれるのです】
――じゃあ……。
「けほっ……ゴメン、具合悪いから寝るねぇ……けほっ、ごほごほっ……」
陽芽、すごくつらそうだ。
わたしは、こぶしをにぎりしめる。
――莉杏が呪っているのは陽芽だ。
陽芽の周りで心霊現象が起きているのも、とつぜん体調が悪くなったのも、莉杏の呪いが影響しているに違いない!
最初のコメントを投稿しよう!