6月3日(火)② おたぬき様の恋愛指南

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「うん。毎日使っているあねたばグッズのペン」  ふで箱も、ペンも、したじきも、全部〈あねたば〉のグッズ、かつ、マシロくんのメンバーカラーの白だ。(ちなみに陽芽が推すツバキくんのメンバーカラーはピンク!)  たぬがペンに触れて、ふうと息を吹きかけると、透けて見えるインクが貝殻のようにターコイズブルーにかがやいた。 「ペンに神性を与えました。このペンを用いて部屋中に解呪式を記します」 「解呪式……呪いを解くための式だね?」 「ええ。冥花からお手本をもらってきましたから、この通りに写せば大丈夫ですよ」  たぬが取り出した紙は、見たこともない文字や模様でびっしりと埋まっており、(これを全部、わたしひとりで書くの!?)とめまいがした。 「葵を助けるためならこれくらい頑張らないとか……」 「葵ですか?」 「うん。莉杏が呪っているのは葵じゃないの?」 「いえ、彼から呪いのにおいはしませんでしたが」 「じゃあ呪われているのはどこの誰?」 「それは、このあと探すのです。放課後までに。いそぎましょう!」  なっ。  解呪師ってブラック企業並の無茶ぶりだ!  結局、解呪式を書き写すのに時間ギリギリまでかかってしまった。  ――昼休みが終わっちゃうっ。 【瑚兎がモタモタしているからですよ】  キーホルダーに化けたたぬが小言を言う。正直、お母さんや先生よりもうっとうしいぞ。  教室へダッシュ――のまえに、保健室へ寄り道。 「陽芽。体調はどう?」  ベッドのカーテンを引くと、青白い顔の陽芽がうすく目を開けた。 「瑚兎子来てくれたのぉ?」 「って? 今来たトコだけど?」 「昼休み、カーテンの向こうから名前を呼んでくれたでしょお?」  ――なんのこと? だってわたしは解呪式を書くので精一杯で、保健室には来ていないのに。 「ふわあ。眠くて返事できなくてゴメンねぇ。てっきり怒っちゃったかと思ったぁ」 「怒ってないよ。なんで……?」 「だって瑚兎子、『ゆるさない』って言ったきりいなくなるんだもん。すこし怖かったよ……」  ぞっとして、うまく笑えなかった。  もしかして莉杏?  それとも……。 【呪いによる生き霊かもしれませんね】  たぬがテレパシーで話しかけた。  ――生き霊って、生きた人間の霊? 【あまりにも強い念を持つとあらわれるのです】  ――じゃあ……。 「けほっ……ゴメン、具合悪いから寝るねぇ……けほっ、ごほごほっ……」  陽芽、すごくつらそうだ。  わたしは、こぶしをにぎりしめる。  ――莉杏が呪っているのは陽芽だ。  陽芽の周りで心霊現象が起きているのも、とつぜん体調が悪くなったのも、莉杏の呪いが影響しているに違いない!
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