6月3日(火)② おたぬき様の恋愛指南

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【解呪できる条件が整いましたね。あとは放課後、莉杏をどうやって呼び出すか……ニセモノのラブレターでも書きますか?】  ――莉杏は面白がってグループの子達も誘って来るよ。そういう子なの。  いつも大勢の取り巻きと一緒にいる莉杏を、どうやったらひとりで理科準備室に来るように仕向けられるだろう? 【だれにも知られたくない……あるいは、ひとりじめしたい状況を作れれば……?】  ――あ、そっか。その手があった。気は進まないけど、たぬの出番だね。 【へ。わたくしですか?】  放課後。  全学年の授業が終わってみんな帰ってしまった校舎には、児童の代わりに薄気味悪い影が集まってくる。  足音もやけにひびく。  抜き足差し足。忍者顔負けの隠密ぶりで廊下を歩く。 「たぬ」  ドロン!  葵に化けて、たぬが「どうです? しっぽは出ていませんか?」と聞いた。 「どこからどう見ても葵だよ。じゃ、よろしく!」  キャハハハ……と莉杏の笑い声が近づいてきて、わたしは素早くロッカーのうしろに隠れた。 「それはフツーにキモいってー」 「さすがにヤバい」 「ひどっ」 「だってさー……あれ、葵じゃない?」  莉杏は、ピタリと足を止めた。  廊下の曲がり角から、葵……ではなく、たぬが莉杏にだけ見えるよう、コッソリ手まねきをし、背を向ける。 「みんな、先に帰ってて」 「え? 莉杏?」  莉杏がたぬを追いかけるのを見届けて、わたしもいそぐ。 【やだ。葵ったらどうして理科準備室のほうに行くんだろ。あっちってなんだか怖いんだよね……と莉杏は思っていますね】  見つからぬよう必死に隠れるわたしをよそに、たぬはのんきに心の声で教える。  この廊下は北向きで、一日中日が差さないから、いつ来てもひんやりと寒くってわたしも苦手。 【そういや今日の瑚兎、社会の時間に居眠りしてよだれたらしてておもしろかったなー……だそうです】  ――たぬ、ホントに莉杏の心読んでる? 【いえ。瑚兎以外とはテレパシーは使えません】  ――だと思った。ったく……それよりペンで文字を書いただけで、呪いを解けるの? 【冥花が言うならそうなのでしょう。瑚兎は先回りをして理科準備室に隠れていてくださいね。そのときわたくし達は一メートル以上離れることになりますが、気持ちをしっかり持ってください】  たぬの指示にしたがい、わたしは途中で先回りをして、ドアの隙間からすべりこんだ。
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