6月2日(月) 巫女とたぬきとわたしの呪い

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「……ぶえっくしゃっ!」  あ~。さむっ。このところやけに冷えるんだよね。小五にして冷え性とは。  たぬきがまえ足でチョイとわたしの指をさわった。 「おや、あなた、血が出ていますよ。くしゃみが豪快すぎて血管が切れたのでしょうか?」 「なワケあるかいっ。罠の刃先で切ったみたい」 「えっ!?」 「これくらいのケガ、家で消毒するから大丈夫だよー。心配してくれてありが……」 「ケガの心配なんかしていませんッッッ」  ……ん?  たぬきさんが野生の本能を呼びさましたのか、牙をむいてどなるではないか。 「わたくしの血とあなたの血がまじった。わたくしはあなたに感謝をした。これはもしかすると〈血の契約〉が成立してしまったかもしれません。あああああ最悪です! 屋島(やしまの)太三郎狸(たさぶろうたぬき)の子孫ともあろうわたくしが、このチンチクリンでな~~んの才能もなさそうな子どもと契約を結んでしまうなど」  なにを言っているか全然わかんないけど、またしても、すっごく失礼かまされてるよね? 「ひとりで話を進めないでよ。やたしま? た――たぬ――たぬ太郎?」 「あああストップ! なんてことを! 契約した(あるじ)が最初に呼ぶ名前が、そのままわたくしの名前になるのですよ!?」 「へ!? 全っ然わかんない。血の契約って、ダークな語感がカッコいいね」 「ああ血の契約すら知らないとは、見た目通りのまぬけですね。これは人間と人ならざる存在を主従関係でしばるです。ですが、さいわいにも、この町には(かい)(じゅ)師がいます」 「解呪師……?」 「呪いを()く職業ですよ。無知にもほどがあります。学校でなにを勉強していらっしゃるのですか?」  もふもふたぬきから発される切れ味のいい嫌味は無視をして。 「わたしは生まれも育ちも夕霧町だけど、そんな存在、聞いたコトない」 「わたくしはその解呪師に弟子入りするため、はるばるやってきたのです。こうなったら、さっそく契約をナシにしてもらいに行きましょう!」 「あっそ。わたしは帰るね。今日は宿題多いし、なんか悪寒もするし……っぶえええっくしゅ! ……あーまただ。やっぱ風邪かなー」  たぬ太郎はさっと落ち葉を拾い、頭にのせた。  ドロン! 「さあゴチャゴチャ言わずに一緒に来ていただきますよ」 「に、人間に化けた!」  さらさらの金髪に、こはく色の瞳。  めずらしい柄の立派な着物。  年齢はわたしと同じくらい。  わたし、こんなイケメンの化けだぬきを『たぬ太郎』と名づけちゃったの!?  たぬたろう……ゴメン、ダサすぎる。 「いまから改名できない?」 「できないから最悪なのです」  ……罪悪感に負け、わたしはたぬ太郎に手を引っ張られるがまま、おとなしくあとをついていった。
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