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「……ぶえっくしゃっ!」
あ~。さむっ。このところやけに冷えるんだよね。小五にして冷え性とは。
たぬきがまえ足でチョイとわたしの指をさわった。
「おや、あなた、血が出ていますよ。くしゃみが豪快すぎて血管が切れたのでしょうか?」
「なワケあるかいっ。罠の刃先で切ったみたい」
「えっ!?」
「これくらいのケガ、家で消毒するから大丈夫だよー。心配してくれてありが……」
「ケガの心配なんかしていませんッッッ」
……ん?
たぬきさんが野生の本能を呼びさましたのか、牙をむいてどなるではないか。
「わたくしの血とあなたの血がまじった。わたくしはあなたに感謝をした。これはもしかすると〈血の契約〉が成立してしまったかもしれません。あああああ最悪です! 屋島太三郎狸の子孫ともあろうわたくしが、このチンチクリンでな~~んの才能もなさそうな子どもと契約を結んでしまうなど」
なにを言っているか全然わかんないけど、またしても、すっごく失礼かまされてるよね?
「ひとりで話を進めないでよ。やたしま? た――たぬ――たぬ太郎?」
「あああストップ! なんてことを! 契約した主が最初に呼ぶ名前が、そのままわたくしの名前になるのですよ!?」
「へ!? 全っ然わかんない。血の契約って、ダークな語感がカッコいいね」
「ああ血の契約すら知らないとは、見た目通りのまぬけですね。これは人間と人ならざる存在を主従関係でしばる呪いです。ですが、さいわいにも、この町には解呪師がいます」
「解呪師……?」
「呪いを解く職業ですよ。無知にもほどがあります。学校でなにを勉強していらっしゃるのですか?」
もふもふたぬきから発される切れ味のいい嫌味は無視をして。
「わたしは生まれも育ちも夕霧町だけど、そんな存在、聞いたコトない」
「わたくしはその解呪師に弟子入りするため、はるばるやってきたのです。こうなったら、さっそく契約をナシにしてもらいに行きましょう!」
「あっそ。わたしは帰るね。今日は宿題多いし、なんか悪寒もするし……っぶえええっくしゅ! ……あーまただ。やっぱ風邪かなー」
たぬ太郎はさっと落ち葉を拾い、頭にのせた。
ドロン!
「さあゴチャゴチャ言わずに一緒に来ていただきますよ」
「に、人間に化けた!」
さらさらの金髪に、こはく色の瞳。
めずらしい柄の立派な着物。
年齢はわたしと同じくらい。
わたし、こんなイケメンの化けだぬきを『たぬ太郎』と名づけちゃったの!?
たぬたろう……ゴメン、ダサすぎる。
「いまから改名できない?」
「できないから最悪なのです」
……罪悪感に負け、わたしはたぬ太郎に手を引っ張られるがまま、おとなしくあとをついていった。
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