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夕霧町四丁目、境目の山。
百三もある石階段の天辺。
朽ちて色あせた青の鳥居。
どこからか鳴る風鈴の音。
りーん……
「いらっしゃい。ひさびさのお客様じゃ」
巫女装束の少女は微笑む。
西日で朱く染まった頬が
なんだかすこし恐ろしい。
誰かが見ている気がして、
そうっと後ろを振り返る。
あったはずの階段がない。
りーん、りーん……
「怖がるでない。いたずら好きの夕霧が、帰り道を隠してしまっただけ」
りーん、りーん、りりーん……
「呪われた子ども達。ようこそ、わが〈逢魔が宮〉へ」
りーん、りりーん、りりりーん……
りりーん、りりりーん、りりりりり
りりりりーん! りりりりりり!!
「だあっ。うるさあ――――――い!」
巫女の一喝で風鈴がピタリと静まった。
「ったく、ミステリアスな登場シーンがだいなしじゃ」
のんびりとした口調。
わたしより数センチ低い身長。
神社の巫女さんにしては派手すぎるかざりのついた装い。
「あなた、なに者なの!?」
化けだぬきのお次は、コスプレ巫女さん!?
「わが名は冥花。この神社の巫女兼解呪師じゃ。えーと、キミは五年一組、出席番号一番の藍浦瑚兎子じゃな。愛称〈よろず屋・ことちゃん〉として、学校でキミを知らぬ者はいない有名人」
「なな、なんで、わたしを知っているの!?」
石畳にへたり込んだわたしのひじに、ふわっとしたやわらかな毛の感触。
あまりの心地よさにへにゃっと口もとをゆるめた目線の先には……いつの間にかたぬき姿に戻った、たぬ太郎。
「めーかは夕霧町を箱で推しておるからのー。住む者のプロフィールはバッチリ把握済みじゃ!」
箱推しとは、たとえばアイドルグループなんかを特定のメンバーじゃなくグループ全体を推す、という意味。
ていうか町の箱推しって……そんなのアリ?
「それともうひとり、見ない顔じゃな。」
「はい。このたびは逢魔が宮の巫女殿に弟子入りしたく参りました。今はワケあって……その…………た……たぬ太郎と名乗っております…………うう」
たぬ太郎は苦虫をかみつぶしてさらにもう数匹飲まされた顔で、イヤそうに自己紹介をした。
ホント、ごめんね。
「お目見え早々申し訳ございませんが、さっそく巫女殿に解いていただきたい呪いがあるのです。わたくしと、この瑚兎子の〈血の契約〉は、さきほど誤って結んでしまった呪い。アクシデントだったのです。どうか無効にしてもらえませんか!」
「そんなのムダじゃ」
「そ、そこをなんとか。なんでもしますから!」
「ムーダーじゃ~。それに、その程度の血の契約ならほうっておいてもさしつかえなかろう。互いに半径一メートル以内から離れられなくなるだけのこと……」
「一メートル以上離れるとどうなるの?」
「気分が落ち込んで、やる気がなくなり、実質なにもできなくなるくらいじゃ」
なっ!?
結構、困るぞ!?
「……ふーん。たかが血の契約も取り消せないとは、たいした解呪師ではないのですね。期待して損しました」
「ちょっとたぬ太郎。こっちからたずねたのにそんな言い草はないでしょ」
「たぬ太郎と呼ばないでください!」
「じゃあ、たぬ」
たぬを抱えあげると、もふもふの毛玉は手足をじたばたさせて「はあ~!? この小娘が~!」とわめいた。
「うるさいのう。瑚兎子、こやつをたぬき汁にして食ってしまうか?」
げげっ。
この巫女さん、見た目に反して、発想がえぐい。
「めーかはムリとは申しておらん。ムダだと言ったのじゃ。瑚兎子は呪いによって、残り七日の命。命がつきれば契約も自動的に解消される」
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