6月2日(月) 巫女とたぬきとわたしの呪い

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 夕霧町四丁目、境目の山。  百三もある石階段の天辺(てっぺん)。  朽ちて色あせた青の鳥居。  どこからか鳴る風鈴の音。  りーん…… 「いらっしゃい。ひさびさのお客様じゃ」  巫女装束の少女は微笑む。  西日で(あか)く染まった頬が  なんだかすこし恐ろしい。  誰かが見ている気がして、  そうっと後ろを振り返る。  あったはずの階段がない。  りーん、りーん…… 「怖がるでない。いたずら好きの夕霧が、帰り道を隠してしまっただけ」  りーん、りーん、りりーん…… 「呪われた子ども達。ようこそ、わが〈(おう)()(みや)〉へ」  りーん、りりーん、りりりーん……  りりーん、りりりーん、りりりりり  りりりりーん! りりりりりり!! 「だあっ。うるさあ――――――い!」  巫女の一喝で風鈴がピタリと静まった。 「ったく、ミステリアスな登場シーンがだいなしじゃ」  のんびりとした口調。  わたしより数センチ低い身長。  神社の巫女さんにしては派手すぎるかざりのついた装い。 「あなた、なに者なの!?」  化けだぬきのお次は、コスプレ巫女さん!? 「わが名は(めい)()。この神社の巫女兼解呪師じゃ。えーと、キミは五年一組、出席番号一番の(あい)(うら)瑚兎子じゃな。愛称〈よろず屋・ことちゃん〉として、学校でキミを知らぬ者はいない有名人」 「なな、なんで、わたしを知っているの!?」  石畳にへたり込んだわたしのひじに、ふわっとしたやわらかな毛の感触。  あまりの心地よさにへにゃっと口もとをゆるめた目線の先には……いつの間にかたぬき姿に戻った、たぬ太郎。 「めーかは夕霧町を箱で()しておるからのー。住む者のプロフィールはバッチリ把握済みじゃ!」  箱推しとは、たとえばアイドルグループなんかを特定のメンバーじゃなくグループ全体を推す、という意味。  ていうか町の箱推しって……そんなのアリ? 「それともうひとり、見ない顔じゃな。」 「はい。このたびは逢魔が宮の巫女殿に弟子入りしたく参りました。今はワケあって……その…………た……たぬ太郎と名乗っております…………うう」  たぬ太郎は苦虫をかみつぶしてさらにもう数匹飲まされた顔で、イヤそうに自己紹介をした。  ホント、ごめんね。 「お目見え早々申し訳ございませんが、さっそく巫女殿に解いていただきたい呪いがあるのです。わたくしと、この瑚兎子の〈血の契約〉は、さきほど誤って結んでしまった呪い。アクシデントだったのです。どうか無効にしてもらえませんか!」 「そんなのムダじゃ」 「そ、そこをなんとか。なんでもしますから!」 「ムーダーじゃ~。それに、その程度の血の契約ならほうっておいてもさしつかえなかろう。互いに半径一メートル以内から離れられなくなるだけのこと……」 「一メートル以上離れるとどうなるの?」 「気分が落ち込んで、やる気がなくなり、実質なにもできなくなるくらいじゃ」  なっ!?  結構、困るぞ!? 「……ふーん。たかが血の契約も取り消せないとは、たいした解呪師ではないのですね。期待して損しました」 「ちょっとたぬ太郎。こっちからたずねたのにそんな言い草はないでしょ」 「たぬ太郎と呼ばないでください!」 「じゃあ、たぬ」  たぬを抱えあげると、もふもふの毛玉は手足をじたばたさせて「はあ~!? この小娘が~!」とわめいた。 「うるさいのう。瑚兎子、こやつをたぬき汁にして食ってしまうか?」  げげっ。  この巫女さん、見た目に反して、発想がえぐい。 「めーかはとは申しておらん。だと言ったのじゃ。瑚兎子は呪いによって、残り七日の命。命がつきれば契約も自動的に解消される」
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