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冷たい風が吹いて、わたしは自分で自分を抱きしめて震えた。
寒い。
海に入ったせいだけじゃない。
内側から氷りつくみたいだ。
たぬ。
早く顔を見せてよ。
海からあがって「びっくりしましたか? 瑚兎はチョロいからだましやすいですね~」って偉そうに言ってよ。
いつまで待っても、海面からたぬの耳も、しっぽもあらわれてはくれない。
「瑚兎子ちゃん。ごめんなさい。近くにだれもいなくって」
汗だくのユウヒ先輩は、悔しそうに海をにらんだ。
午後になって風はますます強くなり、白波が砂浜にぶつかってくだける。探しに行ったらわたし達もおぼれてしまうだろう。
泣きそうになるのを隠そうと、わたしは腕で顔をおおった。
たぬがいなくなって、こんなにも心細いなんて。
「瑚兎子ちゃん」とユウヒ先輩がなにか言いたげに口を開きかけて、ぎゅっとくちびるをかんだ。
呪いじゃなくても、どうしようもないコトってある。
じゃなきゃ、だれかがだれかを呪ったりなんかしない。
陽芽、ショックを受けた顔をしていた。きっと、たぬを海に落とすつもりはなかったんだ。
あれは事故。しかたない。でも……陽芽のせいで……たぬは……わたしの大事な相棒なのに……。
わたしまで呪って、たぬも殺して、陽芽はひどい。
どうしてあんな子が生きているんだろう。
くやしい。
そうだ。わたしも呪ってしまえば――
――って、わたし、なにを考えているの!?
頬をぱしっと自分でたたく。
陽芽を呪おうとするなんて、どうかしてる!
「あの、もしかして……藍浦瑚兎子ちゃん?」
海岸に自転車をとめて手を振ったのは、お母さんと同じくらいの年頃の女のひと。
いつもなら元気よく返事をするのだが、色んな感情が胸に刺さったままで、うまく答えられない。
「わたし陽芽の母です。瑚兎子ちゃん、いつも陽芽と仲よくしてくれてありがとう。あら、泣いているの……?」
「い、いえっ。潮風が目にしみたんですっ。陽芽のお母さんはお出掛けですか?」
「ええ。ちょっと学校に用事でね。陽芽ったら学校から帰ったら毎日瑚兎子ちゃんの話をするのよ。『図書室であねたばの話をした』とか『瑚兎子は下級生に勉強を教えているんだ』とか『今日は瑚兎子が子犬を保護した』とか『なぜか鉢植えをもらってたよ』とか……こんなに楽しそうに学校へ通う陽芽、はじめてなの」
「えっ?」
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