15人が本棚に入れています
本棚に追加
「いままでもお友達がいないってワケじゃなかったんだけどね。ウチは転勤族で、長くても二年、短いとたった数ヶ月で引っ越さないとならないから、そのうちに陽芽は友達を作るのをあきらめちゃったみたい」
「知りませんでした……」
「瑚兎子ちゃんが陽芽に話しかけてくれたんでしょ? お友達ができたって、陽芽、すごく喜んでた。ありがとね」
わたしは首を振った。
お礼を言ってもらえることなんて、なにもしていない。
だって陽芽はわたしを憎んで、呪っている。
陽芽のお母さんが帰って、ユウヒ先輩も仕事があると帰宅し、葵とわたしだけが海岸に残った。
「なあ。夜田嶋さんってホントは何者なんだ? 一瞬、たぬきに見えたのって錯覚じゃないよな?」
「うん……。半分たぬき、半分人間。太三郎狸の子孫だって言ってた」
「へ? あの? 平家を守護したっていう伝説のたぬきの!?」
「葵、知ってるの?」
「おう。オレのじーちゃん、言い伝えとか好きでさー。太三郎狸を祀っている神社がどっかにあるんだってよ。じゃあ、夜田嶋さんって神様の血が流れてんのか。じゃあ、大丈夫だな」
「大丈夫って、どういう意味?」
「神様の子孫なら海に落ちたくらいじゃ死なねーだろ!」
わたしの心に、明かりがぽっと灯った。
「うん。そうだよね! あれくらいで死ぬワケない。きっとそのうち会えるよね」
悲しみのあまりに我を失いかけてた。
そんなの、わたしらしくない!
いつもの自分を取り戻してくれた葵に、感謝だ。
「ありがとう。葵!」
「よーしっ。景気づけにねばねばダンス踊るか。ねばねば~!」
「ねばねば~!!」
夕方になって、境目の山に日が沈む。
今日の逢魔が宮の工事は終わったみたいで、作業員のひと達はだれもいない。
囲われたバリケードの、ほんの隙間からそうっと侵入する。
――あった。冥花のホウキ!
最初のコメントを投稿しよう!