6月8日(日) さみしさは呪いのカタチ

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「飛んで……飛んで……飛んだっ!」  地面を蹴って空へと飛びあがったら、吹きつける風に涙もたちまちかわいた。  不安定に浮遊するホウキにしがみついて、わたしが向かう先は――陽芽の住むマンションだ。  四階にある陽芽の部屋は、しっかり鍵が閉まっている。  できるかわかんないけど、ペンを取り出し、ためしにガラスごしに念じてみる。  ――開け……開け……  開いたっ!  窓を引いて、靴を脱ぎ、ホウキを持ってこっそり入る。  どろぼうみたいで罪悪感がすごい。  ――部屋のどこかに〈瑚兎子人形〉があるハズ。  さっそく、ベッドの下に段ボールを発見!  いかにも怪しい。  ……が、中身は人形ではなかった。  ――これ、色紙? 『ひめちゃん てんこうしても げんきでね』 『みじかいあいだだったけどアリガト!』 『忘れないでね☆』  転校のときにクラスメイトが書いたのだろうお別れのメッセージが、何枚も入っている。  ――陽芽って、こんなに転校したんだ。  わたしには言わなかったけど、陽芽はずっとさみしかったのかもしれない。  色紙の下から、まがまがしい黒色の表紙が垣間見えた。  隠すようにしまわれた一冊の本。  ……タイトルはない。  あねたばのしおりがはさまったページを、開いてみる。 ====好きな相手をひとりじめする方法==== 〈用意するもの〉 相手に見立てた人形・・・一体 ※そっくりであればあるほど効力を発揮します。 赤いろうそく・・・七本 ①ろうそくに、相手のフルネームを彫刻刀やカッターナイフで彫ってください。 ②部屋を暗くして、赤いろうそくを人形の周りに立てます。 ③人形の背後にあるろうそくから、反時計回りに一本ずつ火をつけてください。(途中で一本でも消えてしまったら失敗です) ④人形を相手だと思って話しかけてください。内容はなんでも構いませんが、ろうそくがすべて燃え尽きるまで喋るのをやめてはいけません。 ⑤七本すべてのろうそくが燃え尽きたら、完了です。人形は相手とふしぎなつながりを持ち、人形をあたためれば相手もあたたかくなり、人形を冷やせば相手は寒くなるでしょう。  これで相手はあなたの意のままです。 ============================  ――この本って、もしかして。  裏表紙には貸出をした生徒の氏名が記されている。  一番下には陽芽の名前が。すぐ上の欄には昨年の日付で『六年三組 鉄輪舞由』、その前に借りた生徒は『五年一組 八神莉杏』。  ドアを開けた陽芽が、「ひっ。瑚兎子……!?」とわたしを呼んだ。 「あ、お邪魔してます」
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