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「飛んで……飛んで……飛んだっ!」
地面を蹴って空へと飛びあがったら、吹きつける風に涙もたちまちかわいた。
不安定に浮遊するホウキにしがみついて、わたしが向かう先は――陽芽の住むマンションだ。
四階にある陽芽の部屋は、しっかり鍵が閉まっている。
できるかわかんないけど、ペンを取り出し、ためしにガラスごしに念じてみる。
――開け……開け……
開いたっ!
窓を引いて、靴を脱ぎ、ホウキを持ってこっそり入る。
どろぼうみたいで罪悪感がすごい。
――部屋のどこかに〈瑚兎子人形〉があるハズ。
さっそく、ベッドの下に段ボールを発見!
いかにも怪しい。
……が、中身は人形ではなかった。
――これ、色紙?
『ひめちゃん てんこうしても げんきでね』
『みじかいあいだだったけどアリガト!』
『忘れないでね☆』
転校のときにクラスメイトが書いたのだろうお別れのメッセージが、何枚も入っている。
――陽芽って、こんなに転校したんだ。
わたしには言わなかったけど、陽芽はずっとさみしかったのかもしれない。
色紙の下から、まがまがしい黒色の表紙が垣間見えた。
隠すようにしまわれた一冊の本。
……タイトルはない。
あねたばのしおりがはさまったページを、開いてみる。
====好きな相手をひとりじめする方法====
〈用意するもの〉
相手に見立てた人形・・・一体
※そっくりであればあるほど効力を発揮します。
赤いろうそく・・・七本
①ろうそくに、相手のフルネームを彫刻刀やカッターナイフで彫ってください。
②部屋を暗くして、赤いろうそくを人形の周りに立てます。
③人形の背後にあるろうそくから、反時計回りに一本ずつ火をつけてください。(途中で一本でも消えてしまったら失敗です)
④人形を相手だと思って話しかけてください。内容はなんでも構いませんが、ろうそくがすべて燃え尽きるまで喋るのをやめてはいけません。
⑤七本すべてのろうそくが燃え尽きたら、完了です。人形は相手とふしぎなつながりを持ち、人形をあたためれば相手もあたたかくなり、人形を冷やせば相手は寒くなるでしょう。
これで相手はあなたの意のままです。
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――この本って、もしかして。
裏表紙には貸出をした生徒の氏名が記されている。
一番下には陽芽の名前が。すぐ上の欄には昨年の日付で『六年三組 鉄輪舞由』、その前に借りた生徒は『五年一組 八神莉杏』。
ドアを開けた陽芽が、「ひっ。瑚兎子……!?」とわたしを呼んだ。
「あ、お邪魔してます」
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