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「なにしてんのぉ……」
陽芽の顔色も、わたしに負けず劣らずすっごく悪い。
呪いは、呪う側も体力を消耗するのだ。
「〈瑚兎子人形〉、ふとんの中で見つけたよ。意外と大事にしてくれてるんだね」
わたしの手から人形を奪い、陽芽はぎゅっと抱きしめた。
ぬくもりがわたしにも伝わる。
「陽芽がわたしにかけた呪いは、わたしを呪い殺す呪いなんだよ。知ってた?」
「えっ?」
「七本のろうそくは、わたしの命に見立ててあるの。陽芽が呪いを行った日から数えて七日目にわたしは死ぬ」
「えっ。一、二、三……それって、今日だよぉ!」
わたしはうなずいた。
「そんな……陽芽……そんなつもりじゃ……。ちょっと瑚兎子をひとりじめしたかっただけなの。瑚兎子がほかの子に呼ばれても、体調が悪くなれば陽芽のところに戻ってきてくれる。一緒にいてくれる……って」
そうだったんだね。
陽芽は、いつもニコニコしていて、わたしが頼まれごとをするときも、誰かに呼ばれるときも、「瑚兎子はいそがしいねぇ。いってらっしゃい!」って笑って送りだしてくれていた。
本当は嫌だったの?
心の中ではずっとガマンしていたのかな。
全然気づけなかった。
――わたし、親友失格だ。
「わたしと友達でいるのは、つらかった?」
陽芽はうつむいて、首を降った。
「……瑚兎子はみんなとは違う。わざとふざけて笑いを取ったりしないし、派手な服も着ないし、だれかの悪口を言ったりもしない。それなのに友達が多くて、周りに流されず自分をしっかり持っている感じがカッコいいと思ってた。だから瑚兎子が話し掛けてくれたときは嬉しかった。でもさみしかったの……みんなの瑚兎子じゃなくて、陽芽だけの瑚兎子でいてほしかった……そんなときに、図書室でこの本を見つけたの」
「それは呪いの本。どれだけつらくても頼っちゃいけなかったんだよ」
ペン先で床を叩くと、解呪式がぼうと光った。冥花のときは花びらのようにひらひら待った光が、蛍が飛ぶようにふわふわとやさしく輝く。
「瑚兎子って、なに者なの?」
それ、わたしがまえに冥花に尋ねた質問と同じだ。
「えーと……神様のお手伝い……かな?」
「また〈よろず屋・ことちゃん〉はひとのためにヘンなコトに巻き込まれたんだねぇ。……陽芽に内緒で……」
「あの、ごめんね。心配してくれたのに」
「ううん。そんな頼もしい瑚兎子が好きだった。いつのまにか、忘れてたなぁ。……陽芽こそ、ごめんね」
陽芽が瑚兎子人形をわたしに手渡す。
「瑚兎子に死んでほしくないよ。陽芽、どうしたらいい? 呪いを取り消せる?」
「もちろん」
ペンを振りかざすと、その身に蛍火が集約され、すらりと長く白い枝となった。
呪いを解く代償はよく知っている。
ゆっくり呪文を、唱えたら、胸がぎゅっと痛んだ。
「〈これっきり・あとのまつり・えんきりきり〉!」
さようなら、陽芽。
……りーん。
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