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6月9日(月) 呪いと涙と雨上がり
「みなさんにお知らせしなければならないことがあります。三組の橋田さんはおうちの都合で転校されました。お別れがさみしいからだれにも言わないでおきたいと橋田さんが希望したので今日までお伝えできませんでしたが、お手紙を送りたいひとは先生に……」
「え――――――――っ」
教室中が驚きでいっぱい。
「瑚兎子ちゃんは、まえから知ってた?」
クラスメイト達の目線がわたしにそそがれる。
わたしが首を振ると、みんなつまらなそうに前を向き直った。
ホントは昨夜、呪いを解いたあとに陽芽から聞いたのだけど、それを「まえから知ってた」と言えるかは微妙だ。
隣の席から葵が耳打ちする。
「もしかして昨日陽芽のお母さんと会ったのって、学校の手続きや、挨拶のためだったのかな。オレらにも言わねーなんて、なんか、さみしーなー」
「陽芽には陽芽の事情があったんだよ」
葵は納得がいかなそうに、「でもさあ……」と言ったが、チャイムが鳴ったので話はそこまでで終わった。
休み時間、わたしの足は図書室へと向く。
なんの用事もないし、もう陽芽もいないけど。
陽芽がいない学校は、パズルのピースが欠けたみたいにぽっかりと穴があいて思えた。
陽芽が〈瑚兎子人形〉を作った理由、いまならなんとなく、わかる気がする。
さみしさが呪いに変化してしまったのは黒い本のせいだ。
この本は処分すべき。
もうだれも、だれかを呪わずに済むように。
ページを開くと内側になにかが挟まっていた。
メモ帳を折りたたんだ……手紙?
『瑚兎子へ
ごめんなさい。
友達になってくれてありがとう。
大好き。
陽芽』
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