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「ことちゃ――ん!」
「いっしょにお花の水やりしよ~!」
「あのね、ひまわりがね、おおきくなってきたの!」
一年生の三人グループが走ってくる。
足にまとわりつくかわいい後輩たちに、自然と顔がほころぶ。
「おーい。いい苗仕入れたぞ!」
用務員の田中さんが花のポット苗を地面に置くと、一年生がわっと集合した。
「瑚兎子ちゃん。こないだあげた紫陽花はよく育ったか?」
「ウン。ばっちし!」
「よかった。今度は夏に咲く花の苗をやるよ。――そういや、さっき三年生が校庭横の小川でたぬきをつかまえたって騒いでたぞ」
「へっ? たぬき?」
まさか。
たぬ!?
「お、おい、瑚兎子ちゃん、どこ行くんだ!?」
たぬかもしれない。
きっと戻ってきたんだ。会ったらなんて言おうかな。「なーんだ。せっかく静かになってよかったのに」とか?
……さすがに強がりがバレバレかな。
「大丈夫だって信じてたけどね!」とか?
うん。これでいこう。
網を持つ三年生の男の子達のグループが、わたしを見つけて「ことちゃーん」と手を振った。
「わたしにも見せて~!」
「ことちゃんならいいよ。はい!」と彼らが見せてくれたのは……
……バケツに入った、黒くて、小さな、貝?
これはたぬきではなく……たにし?
「たにし、いっぱいつかえまえた!」
「あ……そっか……アリガトウ……大事に育てるんデスヨー……」
肩すかしをくらって思わずカタコトになったわたしに、彼らは大きくうなずいて教室へと走っていった。
わたしもトボトボと教室へと向かい、階段をのぼる。
あーあ。
たぬ、冥花。
早く帰ってきてよー。
【ただいま、瑚兎】
――へ? 気のせい? 会いたいがあまり、幻聴が聞こえてる?
廊下の窓を開けると、真下の植え込みから耳がふたつ、生えているではないか。
ま、まさか。
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