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「血の契約とは、神や精霊が、契約者である人間から勝手に逃げ出さぬよう強制的にしばりつけるもの。逆に言えば、強制する必要がない者には不要なんじゃ。つ・ま・り、たぬは契約なんぞなくとも瑚兎子とず――っと一緒にいたいと思い始めたってワケじゃな!」
「な。なななななななっ!?」
「たぬ、そーなの? わたしはうれしいけど、人間を呪うっていう目的は?」
「あああああもうっ。わたくしは偉大なる屋島太三郎狸の子孫ですよっ。に、にに人間を愛するなんて、そそそんなワケないでしょうっ」
「……愛しているとまでは言っておらぬが」
「あっ」
墓穴をほったたぬは、耳まで真っ赤にして、わたしから顔をそむけた。
ドロン!
ふわふわのしっぽを振りながら、たたたっと茂みの奥へ消えてゆく。
――逃げたな?
でもわたしも顔が熱くって、とてもたぬをからかう余裕はなかったから、逃げてくれて助かった。
初恋がたぬきって、どうなんだろ。
……まー、いっか。
なんでもアリの世の中だ。
「せっかく見習いになったのじゃから、瑚兎子にも巫女の衣装を作らねばのう」
「やったあ!」
万歳をしてジャンプをしたら、ポツ、と鼻先に雨粒が当たる。
「あ、雨だ」
「雨宿りがてら、仮殿でお茶でもいかがじゃ?」
「いいね。たぬ、戻っておいでー。クッキーもあるよー」
「…………いま行きま――す!」
夕霧町四丁目、境目の山。
百三もある石階段の天辺。
朽ちて色あせた青の鳥居。
どこからか鳴る風鈴の音。
りーん、りーん……
現在、工事中のためゴチャゴチャしておりますが、ご心配なく。
巫女装束のふたりの少女と、一匹のたぬきが出迎えてくれます。
もしも呪いにお困りなら、ご遠慮なく、ぜひお越しくださいな。
「ようこそ〈逢魔が宮〉へ」
りーん。
了
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