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「おまじないも流行ってるよねー。なんでも叶うおまじないが載っている本が図書室のどこかにあるってウワサ、瑚兎子は知ってる?」
「知らない。怖い話苦手なの」
「怖くないのにぃ。じゃ話題変えるねぇ。昨日の夜にひとりで〈あねたばチャンネル〉を見ていたら、部屋のドアがガチャリと開いたの。てっきりママかパパかなと思って振り向いたら、誰もいなくって、それどころかふたりとも留守だったのぉ……」
「ぎゃ――! 結局怖い話じゃん!」
耳をふさいでも陽芽はおしゃべりをやめてくれない。
「あとねぇ、陽芽しかいないはずなのに、リビングを影が横切ったり、女の子の声で呼ばれたりするのぉ……『ずるいぃ』って……」
「ぎゃー。ストップ、ストップ。怪談の季節にはまだ早いって!」
「アハハ。なんか最近変なコト多いんだよねぇ。あとは――」
その続きはさいわいにも聞けなかった。
授業開始をしらせるチャイムが鳴って、わたしと陽芽はそれぞれのクラスに戻ったからだ。
陽芽と最初に話したのは今年の四月。
放課後の図書室にて、陽芽のランドセルにあねたばのキーホルダーがついているのを見つけて声をかけた。
クラスは別々なんだけど、あねたばトークができる唯一の相手!
だから陽芽と親友になるキッカケをくれたあねたばには拝みたいくらい感謝している。
神様、仏様、あねたば様……ってね。
【知り合って一ヶ月とちょっとしか経っていないのに、もう親友なのですか? 人間ってチョロいですねぇ】
またしてもたぬの声が聞こえた。
キョロキョロと教室の左右、上下を確認するが、見当たらない。
【こっちですよ】
窓の外、クスノキの太い枝にたぬが寝そべっていた。
【瑚兎の声も、強く念じてくれれば聞こえます。ずっと見ておりましたけど、いったいいつになったら犯人探しを始めるのですか?】
――盗み見していたの!? プライバシーの侵害だ!
【盗み見とは人聞きの悪い。血の契約のせいで半径一メートル以内から離れられないのを忘れましたか? 瑚兎がとっとと帰宅してしまったものだから、わたくしは家族にバレないよう、リモコンに化けたり、時計に化けたり、せっけんに化けたり、たいへんだったのですよ】
――そういや昨日、リモコンの調子が悪かったり、時計の時間がズレていたり、お風呂場のせっけんが勝手に動いたりしたな。
アレってたぬだったの!?
【おかげでくたくたです。ときどきたぬきに戻ってリラックスしないとやっていられません。……ま、犯人探しがイヤならいいんですよー。瑚兎が呪われたままでも、わたくしはあと六日待てばいいのですから】
――ぐっ。
【まずは学校を見回ってはいかがですか? 呪いの犯人は案外身近にいるものです】
――身近って?
たぬの姿はすでになく、金色の毛がきらきらと舞うだけ。
机を見れば、見慣れないたぬきのキーホールダーが置いてある。
どうやら厄介な存在と関わり合いになってしまったようだ……。
厄介といえば、わたしの頭を悩ませるクラスメイトがふたり。
一人目は、出席番号二番(わたしの隣の席)の葵。
「瑚兎子~。消しゴム貸してくれてサンキュ」
「どういたしま……って、だああ! あねたばグッズの消しゴムが真っ黒に……しかも欠けてる! あ~お~い~!」
「使ったら汚れて減るのが消しゴムの宿命だろ?」
「だからって、たった一時間でどーしてこーなる!」
「怖ぇ~。そんなににらむなよ瑚兎子。あんぱんに嫌われるぞ」
「あんぱん? ……もしかしてあねたばのコト言ってる!?」
「たばたば? ねばねば?」
葵は謎のねばねばダンスをおどりながら、教室から飛びだしていった。
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