20. ヤキモチ

2/5
6402人が本棚に入れています
本棚に追加
/173ページ
この噂が広まり数日経つが、その短期間の間でさえ、もう何度も航さんが女性にアプローチされているのを私も目にしている。 何かと理由をつけて航さんのデスクに訪れる女性も増えた。 同じ執務室で働く上司と部下だからこそ、そんな場面を目撃せざるを得ない。 航さんは華麗にスルーしているし、なびく素振りなんか見せないけど、やっぱり見るたびに少しだけヤキモキしてしまうのは止められなかった。  ……彼氏ができるってこういう不安になる側面もあるよね。でも航さんは大丈夫。少なくとも誰かと体の関係を持っちゃう心配はないもんね。 初めての彼氏の時のように、他の女性とホテルから出てきたところに遭遇してしまうという事態は起こりえないだろう。 もちろん心配すべきはそれだけではないのだろうが、あの時の傷みが再び訪れることがないと思うだけで少し救われる気がした。 そんな航さんの身辺が騒がしい年明けだったが、慌ただしいのはそれだけではない。 仕事面も新年早々に大口顧客のシステムに大幅なトラブルが起きてバタバタしていた。 私は関わっていない案件だったのでさほど影響は受けなかったのだが、航さんはそういうわけにはいかない。 部下である主担当の社員とともに何度も顧客を訪問し、SEと打合せして……とかなり忙しそうだった。 そんなこともあり、私が航さんにプライベートで会えたのは、年が明けてから約2週間が経った週末のことだった。 「年始からバタバタですね。疲れてないですか?」 「いや、本当に参った。やっと落ち着いてきたけど。先週会えなくてごめん」 「全然大丈夫です! 会社で航さんの顔は見れてましたから。こう言う時、社内恋愛っていいですよね。会社で毎日会えるし、忙しい状況も理解できますし。でも……」 「どうかした?」 「航さんにくっつきたかったです!」 ソファーに座っていた私は、隣に座る航さんに横から抱きついた。 毎日会えても触れられない中、女性にアプローチされている姿を見て悶々としていたのだ。 思いっきりすり寄り、久しぶりの温かさを堪能させてもらう。  ……あー、これこれ! 不安も心配も全部溶けていくみたいなパワーがあるんだよね。
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!