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15. 越えた一線
あの日から1週間少々が経った。
倉林院長からの電話はあれ以降、ピタリと来なくなっていた。
それが逆になんとも薄気味悪く不気味に感じる。
自分の思い通りにできるとナメていた相手が意外と反抗してきたことで諦めてくれたかも……と思うのは希望的観測すぎるだろう。
「神崎さん、年賀状を出す顧客のリストアップってどうなってる?」
「それなら終わりました。取りまとめをしている総務部に提出してあるので、近日中に社内便で届くと思います。届いたら手書きでメッセージ書きしなきゃですね」
デスクでパソコンに向かっていた私は、ふいに中津さんに問いかけられ、進捗を報告する。
12月に入り、私たち営業は年末年始に向けた準備を進めていた。
顧客に年末年始休業のお知らせをメールしたり、年賀状を準備したり、だ。
この時期はどこの会社も忙しく、アポも取りにくいため、外回りは減ってデスクでの仕事の時間が増えていた。
ちなみに働き方改革やテレワークの浸透のおかげか、この時期にありがちな取引先との忘年会も今年はほとんど入っていない。
新年に向けて粛々と仕事納めを進めているという穏やかな日々を送っていた。
「1年なんて本当にあっという間だよね。年末年始はどこか行くの?」
「実家に帰ろうかなと思ってるくらいです。中津さんはどうされる予定なんですか?」
「今年は家でゆっくりかな。実は妻が懐妊したんだよ。だから休みの時くらい僕が家事全般を担って妻を休ませてあげようと思ってね」
「えっ! おめでとうございます!」
結婚して丸5年が経つ中津さん夫婦が子供を熱望していることは以前にチラリと聞いていたため、自分ごとのように嬉しくなった。
素敵な夫婦の話を聞いて、思いがけず心がホッコリする。
ブーブーブーブー……
デスクの上に置いておいた社用携帯が鳴り出したのはそんな時だった。
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