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「航さんが年始から指輪外して出社するようになったじゃないですか。すっごい噂になっていて、女性社員の皆さんが目の色変えてアプローチしてるのを近くで見ていて実はヤキモキしてました」
くっつきながら、思いの丈を吐露してみる。
すると航さんはちょっと嬉しそうな顔をしてギュッと抱きしめ返してくれた。
「……なんか喜んでます?」
「志穂が可愛いなと思って」
「ヤキモチ焼かれると可愛いって感じるんですか? でも航さんは嫉妬による束縛とか干渉とか嫌いですよね?」
「それ、志穂は気にしなくていいって前に言ったのに。それにこんなの束縛のうちに入らないと思うけど」
「その、こんなこと聞いていいか分からないですけど、元カノさんにどんな束縛されたんですか?」
実はちょっと気になっていたので思い切って聞いてみた。
というのも、3年前に別れたという元カノさんは航さんが女性に対して勃たなくなったキッカケを作った人物だ。
イチャイチャするだけの関係の時はさほど気にならなかったけど、付き合うようになると彼氏の元カノというのはやっぱり不思議と気になってしまう存在である。
「別に話すのはいいけど、そんな気になる? もう昔のことだし、聞いても面白い話ではないと思うよ」
「気になります!」
「そう? 志穂が聞きたいなら話すけど、まあ、スマホ勝手に見たり、執拗に誰とどこで何してるか聞いてきたり、俺の人間関係を管理したり……とかかな。でも本人もあの時はおかしくなってたって言ってたし、俺にも悪いところはあったから」
私の聞きたいというリクエストに応えて、当時を思い出すように具体的なことを航さんは話してくれる。
だが、その言葉の中で一部引っ掛かるところがあった。
「本人が言ってた、ですか……?」
「ああ、この前偶然再会したんだ。取引先回りしてる合間に立ち寄ったカフェでね」
至極アッサリ航さんの口から飛び出したのは、その例の元カノと会ったという事実だった。
途端に、社内の女性社員がアプローチしていること以上に気持ちが騒めいてしまう。
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