01. イチャイチャ願望

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01. イチャイチャ願望

「でね、尚人(なおと)がギュッてしてくれたの。落ち込んでたんだけど、それだけで励まされちゃった!」 「あいかわらず若菜(わかな)藤沢(ふじさわ)くんは仲が良いね。本当に羨ましい!」 「バカップルかもしれないけどね!」 オフィスビルにある社員食堂で、私は同期の辻本若菜(つじもとわかな)と向かい合い、ランチ定食の鯖の味噌煮を頬張る。 この日の話題は、若菜の彼氏である藤沢くんとのラブラブな出来事についてだ。 仕事のミスで落ち込んでいた若菜を藤沢くんが抱きしめて慰めてくれたらしい。 ちなみに藤沢くんも同期なので、二人は同期同士のカップルであり、入社時研修直後から付き合い出してもう交際3年になる。 本人たちも自覚があるが、社外だと人目を憚らずイチャつくし、社内でも甘い雰囲気をうっすら醸し出すバカップルぶりだ。 ケンカらしいケンカもなく、常に仲の良い二人は私の憧れでもあった。 「あ! 尚人だ!」 多くの人でごった返すお昼時の社員食堂でもすぐに愛しの彼氏の姿は見つけられるらしい。 パッと目を輝かせた若菜を、藤沢くんの方も見つけてこちらにやって来た。 「俺もここ一緒にいい?」 「もちろん、どうぞ」 私が答えると、藤沢くんは当たり前のように若菜の隣の席に腰を下ろす。 二人が付き合っているのは社内でも知っている人が多いけど、一応会社では態度を弁えるようにしているらしく、二人は視線だけを甘く絡ませ合う。 本当はハグしたり、キスしたりしたいんだろうが、それをグッと抑えている感じだ。 いつものことながら、目線だけでイチャつく二人を目の前にして思うことは一つ。  ……私も誰かとイチャイチャしたい……! 仲の良い二人を目にするたびにその欲求は高まるばかりだ。 羨ましくてしょうがない。 「いいなぁ。本当に二人は仲良くて羨ましい」 思わず本音をポロリと吐露すると、若菜と藤沢くんは似たような仕草をしながら言う。 「志穂も彼氏作ればいいじゃない。可愛いし、ナイスバディだし、モテるんだから選び放題でしょ?」 「そうだよ。なんだったら俺が紹介しようか? 合コンでも開く? 志穂ちゃんが来るなら簡単に男集まるけど」 「うーん、それはいいや。彼氏はちょっとね……」 苦笑いしながら私は胸の前で小さく手を振る。 そんな私に「結局いっつも志穂はそう言うんだから」と若菜は呆れ顔だ。 イチャイチャしたい、でも彼氏はいらない――それが矛盾した想いだってことは私自身も分かっている。  ……分かってるけど、彼氏は作りたくないんだもん。ただイチャイチャしてくれるだけの人が欲しい。そんな人そう都合よくはいないけど……。
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