112人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
エピソード40 3年後の私
大勢の人々が行きかう雑踏の賑やかな町の中――
「リアンナ! ほら、こっちこっち!」
大きな噴水の前で友人のアリエルがリュックサックを背負い、ショートパンツ姿で手を振っている。
「あー。ごめんごめん! 道に迷っちゃって……」
私は手を振りながらアリエルの元へ駆けつけてきた。そして ハアハアと息を整える。
「それじゃ、行こう。他の仲間たちはもう事務所に着いたってさ」
「うん、行きましょ」
そして私とアリエルは連れ立って歩き出した。私たちが何処へ向かっているかというと……
「あ~それにしてもドキドキするわ。いよいよ今日から会社がオープンするのね」
アリエルは両手を前に組んで、目をキラキラさせながらている。
「うん、本当だよね……これでいよいよ私達も社会人の仲間入りかな?」
私も期待に胸を膨らませながら大きく頷く。
「大学の教授も驚いていたわよ? 本当に会社を起業したのかって? まさか自分の教え子たちが共同でIT企業を設立するとは思わなかったんじゃないの? まあ、それも全て天才プログラマーのリアンナのお陰かな?」
アリエルは私の背中をバンバン叩く。
「天才って……いやぁ~それほどでも……」
その時、大きなスクリーンを設置したビルの映像が目に飛び込んできた。
『今度のレオナード・キャンベル王太子の新しいお相手は侯爵家のイサベラ・マギールご令嬢で……今回こそ最有力候補となっております……』
私はその映像に思わず足を止めた。
「どうしたの? リアンナ?」
アリエルが不思議そうに声を掛け、私の視線の先を見た。
「ああ……レオナード王太子のニュースね? 今年いよいよ国王になるのよね。確かまだ21歳だったわよね?」
「うん……そうだよ……」
私はスクリーンを見上げながら返事をした。そこ映っているのはアレク……ならぬ、レオナード王子。
3年前、私が恋した彼。
あの日、私はアレクの着信を全て拒否し、さらにアドレスも消去した。
フォスティーヌは約束を守ってくれて、アレクから私の事を問い詰められても何も知らないと言い、連絡先を教えるように頼まれても拒否してくれたそうだ。
ここ最近、レオナードはマスコミを騒がしていた。時期に王位を継ぐので、いよいよ結婚も秒読みかという噂で連日連夜彼に関するニュースは世間を騒がせていた。
私があまりにも食い入るように映像を見つめていたからだろうか? アリエルが声をかけてきた。
「あれ? リアンナもレオナード王子に興味があったの?」
「う、ううん! そんな事無いよ! 只、私の友人が彼の側近のアレクセイ伯爵と婚約したから、それでちょっと気になっただけだよ」
そう……実はフォスティーヌは王子のふりをしていたアレクセイ伯爵と、つい先日婚約をしたのだ。
「そう言えばリアンナの友達に伯爵令嬢がいるって言ってたわよね? どう?やっぱり気品があるの?」
アルエルがフォスティーヌの事を尋ねてきた。
「ううん、そんなことないよ。ごく普通の女の子だよ? さ、それより早く行こう! 皆が待ってるから!」
私はアリエルの背中を押した。
****
新しい事務所に到着した私は共同で起業した他の3人の友人たちと引っ越しの準備をしていた。すると突然スマホに着信が入ってきた。
それはフォスティーヌからだった。
「はい、もしもし?」
『あ、リアンナ。今大丈夫?』
「うん、平気平気」
『ねえ、今日から事務所を開けるんでしょう? 私の婚約も正式に決まったことだし、今夜ふたりでバーでお祝いしない?』
「うん、いいね~楽しみ」
フフ……あのお店のカクテルおいしいんだよね……
『それじゃ、今夜7時にいつものお店でね?』
「オッケーそれじゃまた夜にね?」
その後、私とフォスティーヌはたわいもない話をして電話を切った。
****
19時半――
ムードのあるジャズが流れる地下のショットバーで、ゆったりした白いブラウスにスリットの入った長いタイトスカートを履いた私はバーカウンターでフォスティーヌが来るのを待っていた。
「遅いな……どうしたんだろう?」
私はスマホを眺めながらポツリと呟いた時、突然バーテンが私にカクテルを差し出してきた。
「……どうぞ」
え……?
「あ、あの……何ですか? これは……私、まだ何も頼んでいませんけど?」
「あちらのボックス席のお客様に是非と言って頼まれたのです」
バーテンの差した方向には、こちらに背を向けて座る男性の姿が目に入った。
知らない人から飲み物をご馳走してもらうわけにはいかない……私は立ち上がるとグラスを片手にその男性の元へと向かった。
飲み物を返す為に――
最初のコメントを投稿しよう!