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エピソード38 驚愕
結局、その日になってもアレクも王子様もリゾート島には戻ってくる事は無かった。
そしてその翌日も、次の日も……
心地よい風が吹き込む、広々としたリビングルーム。部屋の天井ではシーリングファンがゆっくり回り、部屋のかしこに置かれたテーブルヤシは南国ムードたっぷりの部屋にぴったりだった。
そんな中……
室内では銃のダダダダッと乱射する音と、不気味な悲鳴と叫び声が響き渡っている。
そしてついに……
「あ~ん!! 本当に……レオナードったら! どうしちゃったのよぉ~っ!!」
フォスティーヌの部屋で80インチのテレビに向かい、ゾンビシューティングゲームをしていた時に突然彼女は叫ぶと、コントローラを手放してしまった。
「キャアアッ! ちょ、ちょっとどうして途中で辞めちゃうのよっ! ゲームオーバーになっちゃうじゃない!」
今私たちはゲーム中でゾンビの集団に囲まれて逃げ場を失っていた。2人で銃を乱射していたのに、何とフォスティーヌはゲームを放棄してしまったのである。
「キャアアッ! イヤアアッ! 来るっ! こっち来てるってばあっ!」
必死で銃を乱射するも……やはり多勢に無勢。正面から近付いて来る恐ろしいゾンビがグワッと口を開け……!
「キャアアアアッ!!」
巨大テレビ画面に真っ赤な血が飛び散り……『You died』の文字が大きく表示される。
「あ~あ……死んじゃった……」
私はまだバクバクする心臓を押さえながらその場にへたり込んだ。そ、それにしても……ものすごい迫力だった。大画面テレビでのゾンビシューティングゲーム。本当に自分がそのゲーム画面の中に入り込んでしまったような感覚になってしまう。
「……」
フォスティーヌを見れば彼女はクッションを抱えたままソファの上に寝転がっている。
「……ねえ。気晴らしにドライブにでも行く?」
「……行かない。行くなら1人で行ってきたら?」
そしてフォスティーヌはゴロリと背を向けてしまった。
ふう……やれやれ……
フォスティーヌは中学生の頃から恋多き少女ったけど、今回の恋愛ばかりは本気だったようだ。落ち込みようが激しすぎる。
「ねぇ……酷いと思わない? リアンナ。レオナードったら、いくら連絡入れても出てもくれないのよ? メールを送っても返信してこないし……私……飽きられてしまったのかな? 捨てられちゃったのかな?」
涙目になって背中を向けて丸くなっているフォスティーヌに私には掛ける言葉が見つからなかった。
やっぱり……2人は深い関係だったのかな……? だからこんなに落ち込んでるのかな……?
だけど、それを言ったら私だって同じだ。アレクは意識の無い私を抱いて……王子様といなくなってしまったのだから。
「あ~っ! むしゃくしゃする! お酒でも飲んでくるわっ!」
不意にフォスティーヌは立ち上がった。
「え? え? 本気なの? だってまだ午後3時だよ?」
時計を見ながらフォスティーヌに訴えた。
「いいのよ! 時間なんか関係ないっ!」
そして部屋を出て行こうとする。
「ま、待って! 私も行くからっ!」
慌てて私もフォスティーヌの後を追った。
「……何よ。お酒位……1人で飲んでくるわよ」
こんな状態のフォスティーヌを1人でお酒を飲みになんか行かせられるはずがない。
「いいのいいの、私もちょうど飲みたいと思っていたところだからさ」
そして私はフォスティーヌと連れ立ってラウンジへと向かった。
**
「あれ……? 何だか人が集まっているね?」
ラウンジへ行くと、そこにはサマースクールの学生たちの半数以上が集まり、大型スクリーンに映しだされた映像を食い入るように見ていた。
そしてそのうちの一人の男性が私たちに気づき、声を上げた。
「あ! 来たぞっ! フォスティーヌとリアンナがっ!」
「何だって?」
「本当だっ!」
「ねえ! ひょっとして2人は知ってたの!?」
私たちはあっという間に取り囲まれ、質問攻めにあっていた。
「ちょ、ちょっと待ってよっ!」
「知ってたって何のことっ?!」
「あれを見てよ!」
私とフォスティーヌはもみくちゃにされながら尋ねると、1人の女子が大型スクリーンを指さした。
するとそこにはどこかの中継番組なのか、女性アナウンサーが話をしていた。
『この度、王国のブルック王国の国王が現役ながらの突然の引退宣言に……新たな次期国王となられるレオナード・キャンベル王太子が即位することに決定いたしました。尚……この国の王太子であるレオナード様はその姿が一切謎のヴェールに包まれておりましたが、今回そのお姿が初めて世間に公表され……」
後の言葉は私の頭に入ってこなかった。
なぜなら……そこに映し出されていたのはアレクの姿だったから。
「え……? う、嘘でしょう……?」
しかし……アレクの映り込んだ映像には字幕で『レオナード・キャンベル王太子』と記されていた――
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