エピローグ 私と彼の3年後

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エピローグ 私と彼の3年後

「リア……泣いているのか? それはつまり、まだ俺の事を好きだって事だよな?」 アレクは私をじっと見つめる。 「……」 私は涙を浮かべたまま黙っていた。 「リア……何で黙っているんだ?」 「どうして……?」 私は声を振り絞るように言った。 「え?」 「私は……一度も貴方の事を好きと言った記憶はありません。……自惚れないで下さい」 失礼な事を言っているのは十分承知している。だけどアレクは結婚相手も決まっている人なのだ。 もうあれから3年も経つのに何故わざわざ私の前に姿を現したのか理解出来ない。 「リア……お前、覚えていないのか? あの日の夜の事。お前を背中におぶってホテルの部屋へ連れ帰る途中、俺の事を好きだと言ってくれただろう?」 「え……?」 嘘……あれは夢じゃなかったの? 「おまけに……お前を部屋に連れて行って、ベッドに寝かせて立ち去ろうとした時に…… アレクは私の手を握り締めてきた。 「お前から俺にしがみついて言ったんじゃないか。行かないで、ここにいて欲しいと……だから俺はその言葉がとても嬉しくて、それで……お前を俺の物にさせて貰ったんだ」 私はアレクの言葉がにわかに信じられなかった。そんな台詞を自分が本当に言ったのだろうか? 何も思い出せないし、覚えてもいない。 「あの日……リアが目が覚めるまではずっとそばにいたかった。なのに突然父から、国王の座を引退するからお前が王位を継げと言われて、それで慌ててアレクと一緒に帰国したんだ。リアに本当の事を告げる前に。島に戻ったら俺の正体を明かそうと思っていたのに……お前はすでにあの島からいなくなっていた」 アレクは熱を込めた目で私から片時も目を離さずに言葉を続ける。 「俺が身分を隠していたことは謝る。だけど、聞いて欲しいんだ。何故そんな真似をしたのかを」 今更話を聞いても何が変わると言うのだろう。だが、何故立場を入れ替えていたのか知る権利位は私にはある。 なので黙ってうなずくとアレクは笑顔になった。 「ありがとう、リア」 そしてアレクは語りだした。 「俺は王族という身分の人間だったから、国では常に俺に近付いてあやかろうとする人間たちで溢れかえっていたんだ。友達だと思っていた相手からも恋人だと思っていた相手も。皆結局俺の地位と金目当て御連中ばかりで散々いいように利用されてきたんだ。俺の名を利用して詐欺を働いたり、金を巻き上げようとしたり。そのせいで16歳の時にはすっかり人間不審の男になっていた」 アレクの顔は悲しげだった。 「3年前のあの時……父にそろそろ王位を継がせたいと言われ、大勢の結婚相手の候補者が上がった。だけど俺は自分の相手は自分で探すと父に告げると夏休みが終わるまでに相手を決めろと言われたんだ。そこで考えた。幸い、俺の顔や名前はまだあまり世間には知られていない。だから従者であるアレクと立場を入れかえて、あのサマースクールを主催したんだ。……わざと王子が参加する事を告知して。そこで身分の事など気にしないで、ただの1人の男として見てくれる女性が現れてくれれば、俺はその女性を選びたいと思ったんだ。そして……その相手がリア。お前だったんだ」 私は黙ってアレクの話を聞いていた。 そっか……あのサマースクールの本当の目的はやっぱりアレクの結婚相手を見つけるためだったんだ。 だから集められた子息令嬢たちは皆身分が高かったわけだ。 「……それは残念でしたね。私みたいな落ちぶれた男爵令嬢しか残らなかったわけですから。でも酷いです。ずっと私を騙していたのですね。どんな気分でしたか?」 「リア、俺はだますつもりは無かったんだ。あの日……リアを抱いたとき、お前が初めてだったのを知って、どれだけ感動して心が震えたか分かるか? だから目覚めたら事実を告白しようと思ったのに、あんなことになってしまった。そしてお前が自分の意思で俺の意前から姿を消したことを知った時、どれだけ絶望したか……」 アレクは苦し気に言う。 知らなかった……アレクがそんなに苦しんでいたなんて。 「俺の国では代々結婚相手は伯爵家以上の爵位の女性が選ばれてきた。だから俺は父を説得し続けてきたんだ。古いしきたりは捨てて、爵位など関係なく自由に結婚できるようにさせてくれと。そこで俺は父からある課題を出された。自分で一から会社を興し、年収が我が国の1年で採掘されるダイヤの収入額を超える年収を得る事が出来たら願いを聞き入れてやると。それで俺は3年間必死に働き……ついに父の課題をクリアすることが出来たんだ」 私は信じられない思いでアレクの話を聞いていた。私には分かる。会社を作ることがどれだけ大変かと言う事が。 だけど…… 「でも……今まで多くの女性との結婚話が出ていましたよね?」 「彼女たちはすべて俺の仕事上のパートナーでマスコミが勝手に騒いでいただけだ。それに、イサベラには別に恋人がいる。仕事のパートナーになる代わりに恋人のふりをしてもらいたいと頼んでいたんだ。明日、きっと彼女は婚約発表をするんじゃないのか?」 アレクの話は何もかもが驚きだった。 そ、それじゃ……本当にアレクが今も好きな女性は私……? アレクは不意に私を強く抱きしめてきた。 「リア……お前を愛してる。3年間一度も忘れた事は無かった。お願いだ……俺と将来結婚して欲しい。お前じゃなくちゃ……駄目なんだ……」 切なげに耳元で訴えてくるアレクに私は彼の胸に顔を埋めた。 「私も……ずっと貴方が好きだった」 「リア……!」 次の瞬間アレクは自分の唇を強く押し付けてくると、そのまま舌を絡める深い口付けをしてきた。彼の熱い舌に頭が痺れそうになりながらも、私は必死でそれに応じる。 「リア……お前を抱きたい……いいか……?」 唇を重ねたままアレクがと尋ねてきた。 「いいも何も……無いよ……」 するとアレクが顔を上げて、フッと笑う。 「リア。やっと言葉遣い……元に戻ってくれたな?」 そして再び深い唇を重ねてくると、私を抱き上げ……そのままベッドに押し倒された。 「リア……リア……」 私の首筋にキスをしながらアレクが私の服を脱がせていく。 そ、そうだ……! 肝心なことを伝えていなかった……! 「あの……ね……アレク……じゃなかった。レオナード」 「何だ……? リア」 アレクは私に覆いかぶさったまま尋ねてきた。 「じ、実は私……抱かれた日の事……な、何も覚えていなくて……」 顔が真っ赤に染まる。恥ずかしくてアレクの顔を見る事が出来ない。 「え……?」 アレクは一瞬驚いた顔をしたが……フッと笑うと耳元で囁いた。 「大丈夫だ。今夜は……絶対忘れられないように……リアの身体と心に刻みつけてやるよ……」 「!!」 その言葉に、私はますます顔が赤くなったが……開き直った。 「お……お願いします!」 アレクは笑みを浮かべ……優しく私を抱いてくれた。 アレクが与えてくれる甘い快感に酔いしれながら思った。 フォスティーヌからの期間限定の悪役令嬢の役を断らなくて本当に良かった…… その夜、私達は空が白むまで身体を重ねた。 お互いの愛を確かめ合うかのように…… そして三年後、私はレオナードと結婚した―― <終>
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