まどかと尚人と櫻谷姫乃

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 土曜日の昼下がり。石原まどかは、実家から持ち帰ったアルバムをリビングのテーブルに広げながら眺めていた。  このアルバムを見ることは、少し勇気がいる作業になる。今でも、まどかにとって喜んで見たいと思う時代の写真ではないからだ。  幼少期のまどかは、母方の実家に預けられていた時期がある。物心がつく少し前から小学校に上がるまでの約3年。  祖父母と、その二人のお世話をする為に雇われた大人達に囲まれた生活。決していじめられたというようなことはなかったと思われる。しかし、幼心に何か理解できない不安を感じていたのか、あの頃の記憶はハッキリと覚えていない。  写真は、カメラを向けられ不安を隠せない表情や、どうポーズして良いのかわからず固まったまま写っているものが大半だ。笑顔の写真が一つもない。  これを両親が見た時、相当心配しただろうな…… などと他人事のようにまどかは思った。 「だけど、お父さんたら、これの何を見ろと言うのかしら」  特に思い出深いような楽しい写真が一枚もないのだけれど。
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