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狩猟の本質は命のやり取りだ。 耳を澄ませ、獲物となる動物の痕跡を辿れ。標的を見つけたら、丁寧に冷静に精神を研ぎ澄ませろ。そして、相手に気付かれる前に、そいつの心臓に向けて弾丸を放て。 成功すれば毛皮と肉が手に入り、失敗すれば逆に獣に襲われ、自分が肉になる。 だから、年老いて家で安らかに死にたいのなら、危険は侵すな。自分の直感には従え。  それがキザキの師匠の、酔った時の口癖だった。  彼はどうして、今、師匠の言葉を思い出すのかと、自問自答を繰り返す。でも、本当は分かっていた。  この山は不自然なほど静寂に包まれている。小動物が草木をかき分ける音も、鳥の鳴き声も全く聞こえない。キザキは初め、自分の耳がイカれたのかと思った。でも、違うようだ。  獣道を見つけても、そこにある足跡はどれも不自然に途切れている。まるで何かに襲われたみたいに。  彼の直感は危険をずっと察知していた。しかし、だからといっておめおめと帰るわけにもいかない。厳しい冬を越す為には、毛皮と肉が絶対に必要だ。
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