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大手人材派遣会社の若手女性社員の栄田さんに派遣してもらう人にやってもらう仕事の説明をした。 「へー、完全オートメーションで食品を」 「はい」 「で、肉や魚は完全に病原菌や寄生虫がゼロなんですか」 「はい。なので牛の生レバーも食べれます」 「牛の生レバー、美味しいらしいですね」 「ええ。あくまでも個人的に自己責任で、ですけど」 法律で販売は禁止されているからな。 「なるほどです。それらの食品に関する営業や事務をする人を派遣してほしいと」 「はい」 「分かりました。それで、今後はどの方に連絡とかすればよろしいでしょうか」 「え?」 「あの、課長さんとか部長さんとか」 「あ、まだいないんです」 「それで社長さんが来られたんですか」 「はい。やっぱり部長みたいな人がいりますかね」 「え?」 「いや、我が社は社員3人なんです」 「はい?」 「1人は横にいる秘書で、残りの2人は別の仕事をしているので」 「なるほど、でしたら斎藤社長が派遣社員の指導とかするんですか」 「え?」 「え? そうですよね?」 いや、俺は新入社員に指導とかしたことないし。何ならついこの前まで先輩や上司に指導されてたし。 「あの、指導してくれる課長や部長さんを派遣してもらえます?」 「いえ、それは無理ですけど」 まあ、そうだよな。課長や部長が派遣社員って聞いたことないし。 ぞろぞろと年配の男性たちがやって来た。 栄田さんに何やら言っている。 何かあったのか? 年配の男性が俺に頭を下げた。 「斎藤社長様、こんな場所で対応してしまい大変申し訳ございません。私は弊社の社長をしております所沢です。よろしければ特別室へ移動してお話を」 大手人材派遣会社の社長が俺に何の用だ? 「ありがとうございます。でも、この場所で大丈夫ですよ。それで、私に何かご用事ですか?」 「あ、いえ、特にこちらからは。ご挨拶をと思いまして」 「でしたら、私は栄田さんと話しをして帰りますのでお気遣いなく」 「さようですか。栄田くん、斎藤社長にくれぐれも失礼がないように頼むぞ」 「は、はい、社長」 ぞろぞろと年配の男性たちは退室していった。 「はー、緊張しました。うちの社長と会話するのは初めてです」 「そうなんですか」 「平社員の私からしたら神様ですから」 「なるほど」 「ちなみに、さっきまで話していた部長のポストですが私では、なんて。まあ、無理ですよね」 「え? 栄田さんが我が社に転職してくれるんですか?」 「あ、その、うちの社長がペコペコと頭を下げるくらい黒井商事さんって凄いみたいですし、私なんて無理ですよね、すみません」 「栄田さんさえ良ければ。派遣の人たちのこともよく分かっていると思いますし、大歓迎ですけど」 「え? 良いんですか?」 「はい」 「あの……失礼ですが待遇とかは」 部長の待遇か。考えたこともなかった。 黒井ラーメン店の社員は年収1,000万円で、店長は1,500万円らしい。 だとすると、部長なら3,000万円か? 「給与は、ボーナス込みの年収3,000万円でどうです?」 「ええ! 3,000万!?」 「はい」 「ま、マジですか!?」 「マジです」 「あ、すみません。ビックリしたので」 「はい」 まあ、いくら大手人材派遣会社の社員だとしても年収3,000万円でどう? と言われたらビックリするか。 「……あの、怒らないでくださいね」 「え?」 「もしかして、密輸や不正とか、年中無休で家にも帰れないくらい働かされるとか?」 いや、それどこのブラック企業だよ。ブラック企業でもそこまでしないだろ。 「いえいえ、とんでもない。さっき栄田さんが言ってましたが、黒井商事が借りているオフィス。そんなブラック企業なら借りれませんよね」 「あ、そうかもです」 ブラック企業でも金さえ払えば借りれるかもしれないが、本当に黒井商事は超ホワイト会社だし。 「完全週休二日で祝祭日も休み、年に3度の大型連休もあります。もちろん残業なんてありませんから」 「その条件で年収3,000万円なんですか?」 「はい」 「ちょっと信じられないです」 「我が社の社員は最低年収が1,000万円で、子会社の店長は年収1,500万円です。なので、本社の部長なら倍くらいかなと。でも、栄田さんがそんなに要らないなら、最低年収でもいいですけど」   「あの、部長待遇でお願いします」  「そうですか」 「お願いいたします」  「でも、栄田さんって有名な大学を卒業してこの会社に入ったんですよね?」 「え?」 大手人材派遣会社の正社員なんて、有名大学卒業じゃないと無理だと思うし。 「そんなエリートな栄田さんが小さな黒井商事に転職してもいいんですか?」 「斎藤社長さんを信用して言いますが、実はちょっとしたセクハラやパワハラをされてるんです」 「はあ」 いや、そんなに信用してもらっても。 「ギリギリ訴えられないレベルのセクハラやパワハラで攻めてくるので、ハラスメント対策室に相談しても『それは栄田さんの気のせいだと思いますよ』って言われて対策してくれないんです。確かに私の気のせいかもってレベルのハラスメントなんですけど」 「それ、ハラスメント対策室の意味がないし、栄田さんからしたらストレスがたまりますよね 「そうなんです」 まあ、相手からの言葉や態度の受け取り方は個人差があるけど。 俺なんか、琥珀さんの言動をいちいち気にしていたら友達なんてやってられないぞ。 で、栄田さんは黒井商事に転職してくることが決まった。 俺は1万年くらい生きるらしいから、ぼちぼちやろうと思う。 【 終わり 】  
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