13

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

13

琥珀さんは月1くらいで俺が宿泊しているホテルのスイートルームへ遊びに来る。 事前に連絡なしにいきなり来るのだ。 正確には、到着する10秒前くらいに楓さんに連絡してから来る。 せめて前の日とか数時間前とかに連絡してほしい。 それを指摘して琥珀さんがブチ切れたら怖いから言わないけど。 琥珀さんは地球人の精神なんて簡単に殺せるらしいし、俺も簡単に精神的に殺されたらたまらない。 琥珀さんとは友達なんだけど、子供の頃からの友達でもないし、簡単に「もう絶交ね、死んで」と言われたりしそうだし。 今日もいきなり琥珀さんが遊びに来た。 ボードゲームをしたり卓球をしたり。 琥珀さんがそれに飽きるとテレビを観る。 料理番組や旅番組とか好きらしい。 琥珀さんは世界中を旅しているらしいもんな。 テレビの中では芸能人が美味しそうな牛肉を食べている。 「牛肉といえば生レバー、食べてみたいな」 俺は生レバーを食べたことがない。凄く美味しいらしいけど。 「食べたらいいじゃない」 「いや、今は法律で生レバーを食べるのは禁止だから」 「私、たまに食べてるけど」 「え? 病原菌とか危ないよ」 琥珀さんは地球外生命体だから大丈夫なのか? 「無菌室で培養した肉だから大丈夫だけど」 「え? 牛肉を無菌室で培養しているの?」 「牛だけじゃなくて豚や鶏とかもね」 「なら、生レバーも大丈夫だね」 「うん。美味しいよ」 「良ければ俺にも食べさせてもらえる?」 「じゃあ、お肉工場をケンちゃんに任せるよ」 「お肉工場?」 「うん」 「お肉工場で作った肉を黒井商事で売ったり?」 「うん。たくさん儲けてね」 「分かった」 生レバーやユッケを安心安全に食べれるのなら、お肉工場を任されようではないか。 1週間後、ホテルから近いビルへ楓さんに連れてこられた。 「このビルを買収しました」 「へー」 「食品生産ビルにしてます」 「え? このビルの中で食品を生産するの?」 「そうです。野菜や肉、魚や飲料とかですね」 「なるほど。無菌室栽培で洗わず食べれる安心安全な野菜とかだね」 「はい」 なんか、いきなり商事会社っぽいことをするようになった。 これまでの黒井商事はフライパンを仕入れて売るだけだったし。 ビルの中ではオートメーションで食品類が製造されるらしい。 梱包からトラックに積み込むまでもオートメーションなのだ。 「社長、黒井商事の社員を増やす必要があります」 「まあ、そうだよね」 「そろそろケンちゃんも自分で人材を見極めないとね」 「え?」 「と、琥珀様が」 「琥珀さんが、俺に社員を採用しろって?」 「そうですね」 なるほど。 「食品部門の営業マンと事務員か」 「はい」 「配送部門はいいのかな?」 「トラック運送会社を買収済です」 「なるほど」 そのうち、土地建物や会社の買収も俺がやらされるのだろうか。 「何人くらい必要かな?」 「そこは人件費で赤字にならない範囲で社長がお決めください」 「うん」 それ、難しくない? 食品生産ビルでの1日の生産量も分からないし。 「楓さん、食品生産ビルの生産量の資料とかある?」 「用意しております」 流石は楓さん。ぬかりがない。 資料を見ると、食品生産ビルは24時間年中無休で生産できるらしい。 まあ、完全オートメーションだもんな。 野菜果物、肉、魚、飲料それぞれに担当者を2人として。 部門長を1人に事務員は3人くらいかな。 「ビニール袋や缶とかの仕入れ、設備のメンテナンスとかはどうなるのかな?」 「それらは琥珀様の手の者がやってくれます」 「それは助かるな」 「最長1万年ローンでいいそうです」 「え?」 「社長が死ぬまでには返してねと」 「なるほど」 そういえば俺の寿命は1万年になったらしい。 「なので、販売したい品や数量を食品生産ビルの管理AIに発注するだけです」 「なるほどね」 1から募集したり面接したりは大変だから、最初は人材派遣会社に派遣社員を頼んで良さそうな人を正社員にするか。 大手の人材派遣会社へ楓さんと訪問した。 アポ無しで行ったのだが、たまたま予定が空いていた人が対応してくれた。 若い女性だ。 「黒井商事の斎藤です。こちらは秘書の黒井さん。いきなりの訪問ですみません」 「いえ、栄田です。よろしくお願いいたします」 名刺を差し出された。 あ、名刺を作ってないや。 「すみません、うっかり名刺を切らしてまして」 「いえ、本日は派遣社員についてですね」 「はい」 「あの、失礼ですが黒井商事さんの社屋とかオフィスとかはどこに?」 「あ、ここです」 スマホの地図アプリでオフィスビルの場所を出した。 「ありがとうございます。え? 丸の内のあのビルにオフィスがあるんですか?」 あのビル? 「すみません、あのビルとは」 「あ、すみません。あのビルにオフィスを借りるのはかなり難しいと聞いてますので」 「なるほど」 「あの、派遣社員は何名くらい」 「そうですね、12人お願いしたいと思いまして」 「12名ですか?」 「はい」 「ありがとうございます」 「派遣してもらえますか?」 「そうですね、要求される資格やスキルによりますが」 「普通の高校卒業レベルで大丈夫ですよ。必要な免許もないと思いますが」 「それでしたら大丈夫だと思います。こちらが派遣料金等の資料になります」 「はい」 ふむふむ。 「あの、斎藤さんは総務か人事の取締役部長さんとかですか?」 「え?」 「いえ、秘書さんが一緒なので」 「あ、ただの雇われ社長です」 「社長さん? 失礼いたしました!」 「あ、いえ」 そんなに大した社長じゃないけど。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!