17人が本棚に入れています
本棚に追加
白波さんが自分の席へ行くまでの間、教室中がそわそわと落ち着かない空気になっていた。
あたしはといえば、彼女のランドセルが昔ながらの赤色だったから「古風なんだな」、なんて考えていた。
「白波さんってどの辺に住んでるの?」
「身長いくつ?」
「好きな食べ物は?」
「好きなタイプは?」
一時間目の授業が終わると、女の子たちが白波さんの元へむらがった。
男の子たちは遠くからその様子をながめていて、あたしも自分の席からチラッと見る。すでに、白波さんはうもれていた。
「……」
そしてあたしは一人、ぽつんと座っている。
あれ? おかしい。いつもならチャイムが鳴って、すぐに誰かが声をかけてくるのに。
ああ、転校生が珍しいんだよね。あたしだって、一瞬気になっちゃったんだもん。
今日くらいはゆずりましょう、人気者の座を。
仕方がないので、次の授業の準備をする。
ええと、国語ね。漢字ドリルでも先に進めちゃおっかな~。
なんて、一週間前までは気楽に考えていた。
「おかしい」
今日の五時間目は体育の授業。
外に出て縄跳びをするのだけど、あたしは今、一人だ。
体操服に着替え、トイレへ行っている間にみんないなくなっていた。
今までだったら、教室で誰かが待っていてくれたのに。
「これも全部……白波優月のせいだ」
「わたしがどうかした?」
突然うしろから声がして、あたしは慌てて振り返る。
そこには、白波優月が立っていた。
「え、えっと」
今の聞かれた……よね? ど、どうしよう……。
動揺して次の言葉がでてこない。
そんな固まっているあたしを気にもせず、白波優月はなぜかにっこり笑った。
「あ、わたしはトイレ行ってたんだ。みんなもういないよね? 一緒に行こ!」
「う、うん」
思いがけない展開に、あたしはの心はとてもザワザワした。
今、クラスの人気者は白波優月だ。
でもあたしには、もう待っている人がいない。
なんでだろう。みんな、あたしのこと好きじゃなかったの?
「あの、まだみんなの名前を覚えてなくて。名前、教えてもらってもいい?」
あたしの複雑な心を知らない白波優月は、のほほんとした口調で話しかけてきた。
「黒宮」
「黒宮さん。下の名前は?」
「……キミコ」
「黒宮キミコさん。よろしくね」
「名前を呼ばないで」
白波優月の言葉をぴしゃりと止める。
「え? どうして」
「なんでもいいでしょ! 名前を呼ばれるの嫌いなの」
「ご、ごめんね」
最初のコメントを投稿しよう!