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白波優月は、悲しそうな顔であたしに謝ってきた。
あたしは自分のことが好きだけど、名前だけはどうしても好きになれない。
漢字で書くと喜美子。喜ぶ美しい子。
意味はすてきだと思うけど、キミコってひびきがおばあちゃんみたいで好きじゃない。
それに比べて、この人は『ゆづき』という、きれいなひびきの名前だ。
きれいな見た目、きれいな名前、みんなの人気者。
なんだか、だんだんとイライラしてきた。このまま、この人と一緒にいたくない。
「どうしたの?」
あたしが下駄箱の前で立ちどまっていると、白波優月は心配そうな顔をした。
やめて。そんな、やさしい声をかけないでよ。
「あ、白波さーん」
「なんでもない!」
あたしが大声で叫んだのと、誰かの声が重なった。
声のした入口の方を見ると、先週まであたしにくっついていた女の子、赤沢アイカがびっくりした顔で立っていたのだ。
「……なに? 黒宮さん、白波さんに変なこと言ったの?」
「へ?」
意味がわからなくて、とっても間抜けな声が出た。
でも赤沢さんはそれをムシし、白波優月の耳元でヒソヒソと話しだす。
「黒宮さんって、けっこうワガママなの。自分の思いどおりにいかないとすぐ怒るんだ。あんまり関わらない方がいいよ」
は? 全部聞こえてるよ!
ていうか赤沢さん、あたしのことそんな風に思ってたの!?
「いや……わたしはなにも言われてないよ」
「白波さんやさしいから、黒宮さんにすぐつけこまれちゃうよー」
あたしがなにも言わないからって、勝手なこと言ってる。
今まで、ずーっとあたしの服とか、髪型とかまねっこしてたくせに!
……もうガマンできない。
赤沢アイカも白波優月も、クラスも学校もどうでもいい!
「あたし! お腹痛いから保健室行くね!」
お腹に思いっきり力をこめて、フルパワーの大声で言ってやった。
「え! 待って黒宮さん!」
「ついてこないで!」
また心配そうな顔する白波優月を振り切って、あたしは保健室へ猛ダッシュした。
いちいちあたしにかまわないでよ!
そんな心配、いらないんだってば!
心はイライラでいっぱいで、頭の中では白波優月の声がひびいていた。
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