ふしぎな矢印

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ふしぎな矢印

 あたしは保健室の前でうろうろしていた。   いきおいで来たのはいいけど、ほんとうはお腹なんて痛くない。どうしよう。  そんなことを考えているうちに、ドアが開いて中から先生が出てきてしまった。 「どうしたの?」 「あ……。えっと、その」  やばい。なんにも考えてなかった。  どう見ても健康なあたし。用がないのに保健室へ来たら、やっぱり怒られるよね。 「休んでく? 他の子もいるから、静かにね」  あれ? 入ってもいいの?  先生はやさしくほほ笑み、あたしを保健室の中へ入れてくれた。  奥のすみっこに、しょんぼりした顔で座っている下級生が一人いる。チラッとあたしを見たけど、興味がないのかすぐ下を向いた。  ひざには大きなバンソウコウが貼ってあるから、転んでケガでもしたのかな。 「ずっとお腹に手をあてているけど、お腹痛い?」  先生が心配そうにあたしを見た。 「え! あ、痛い、です」 「トイレはちゃんと行ってる?」 「行ってます……」  まずい。このままだと、ウソついてるってバレちゃうかも。 「お薬は出せないから、痛いのがおさまるまで休んでてね。ベッド使う?」 「あ、はい、使います」  空いているベッドへ横になると、先生がカーテンを閉めてくれた。  ……つい、使うって言っちゃった。  しーんと静かなベッドの上。  なにもすることがなくて、ゆらゆらと動くそばのカーテンをながめる。  あ、すずしい。外から風が入ってきてるんだ。 「ふあ……」  なんだか……とっても気持ちいいかも。  ここまできたら、しょうがないよね。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ寝ちゃおう。 ◆◆◆ 「…………えーと。ここと、あとはこっちに……よし! 最後は元にって、まだ戻しちゃだめか。帰ってきたら表になるようにして。さ、早く持ち場に戻るぞー」
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