0人が本棚に入れています
本棚に追加
彼と彼女の出会いは運命だった。
彼は第三王子だった。彼女はその隣国の男爵の娘だった。
彼女は彼の国にいる親戚の家に遊びに来ていた。
そしてその家の付き合いがある家でのお茶会に参加していた。そのお茶会にお忍びで彼が来ていたのだった。
彼女が遊びに来ていなければそのお茶会には参加していなかったし、彼がお忍びなどという気まぐれを起こさなければ二人は出会うことなどなかった。
だが二人は出会ってしまった。そして恋に落ちてしまったのだ。
二人の恋を応援する者はいなかった。彼の家族も彼女の家族も友人たちも周りの者たちは皆、身分を考えると応援などできるわけもなかった。
裏でこっそり応援しているのは夢物語に憧れている者だけだった。
反対されれば反対されるほど、二人の気持ちは強く結びついていった。
そして、生まれ変わってまた会おうと二人は毒を飲んだ。
何度生まれ変わっても必ず出会えるし、お互いのことを思い出すと。
周りの人たちの悲しみや苦しみを考えることはなかった。
二人は二人の苦しみしか見えていなかった。
☆ ☆ ☆
老人は病院のベッドで酸素吸入器や点滴につながれて、かろうじて生きていた。
老人を看取るために親族が病院に集まっていた。その中の一人に彼の孫娘がいた。一番かわいがっていた孫だった。
彼女は遠くから二ヶ月の娘を抱いて、祖父に会いに来ていた。
「おじいちゃんの初ひ孫だよ。私に似ている女の子だよ」
ベッドの上で死を待つだけの老人の目がうっすらと開いて、ひ孫を見つめたように見えた。彼はそのまま息を引き取った。
彼と彼女は今世でも出会えたのは運命だったのだろう。
二人は何度生まれ変わっても、出会う運命だ。
そう、出会うだけの運命。そこから何も始まることはない。
最初のコメントを投稿しよう!