3話 姉になった妹

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3話 姉になった妹

姉の体の軽さに驚いた。 姉の体は健康そのものだ。いわゆる普通の成長を遂げていた。 姉にいつも優しく接してくれるおばあちゃん。私は殆ど関わりがなかったけど、優しい人だったと知った。 でも気になる事もあった。 それは両親が姉を全然気にかけていない事だ。 姉になってみて分かる。淋しいと……。 そして両親の顔を見て分かる。ただ疲れていたのだと。いつ発作で倒れるか分からない娘。私の前ではいつも気を張っていたのだろう。 でも私の看病に疲れ切っていて、姉を気にかける余裕がなかったと言う事を。 ……全て私が悪かった……。 それから私は四歳で退院した。ずっと両親を奪ってきた妹。叩いても、何を言ってもおかしくない。だけど姉は何も言わずにその場を離れて行く。 あの時は嫌われていると思ったけど違う。我慢してくれたんだ。口を開けば、手を差し出せば何をするか分からないから、離れて我慢してくれた。そんな事にも気付いていなかった。 私は発作でよく倒れ、姉は怖がっていた。それはそうだよね。同じ顔の妹が苦しがっているのだから。両親も慌てていて、救急車に乗せられていくのを目の当たりにしてきたのだから。 そして幼稚園に通っていた姉は私が知らない所で傷付いていた。他の子は兄弟姉妹で一緒に遊ぶのに、私達は一緒に遊べない。普通は一緒に遊んだり喧嘩したり出来るのに私とは出来ない。病気だから……。 運動は勿論だけどそれだけじゃない。精神的な事でも発作は誘発されてしまうから、出来るだけ穏やかに過ごさないといけない。 緊張するトランプやゲーム、ハラハラするテレビや本もだめだった。出来るのは絵を書いたり折り紙や手芸やビーズ編みなどのコツコツ仕上げていけるものばかり。姉は手先を動かすのは苦手で体を動かすのが好き。私達が一緒に遊べる事なんてなかった。 私はせめてと思い、作ったビーズ編みを姉にあげた。 すぐ捨ててくれて構わない。だって私が作ったものなんていらないだろうから……。 小学生になった姉は元気に学校に通っていた。やはり友達が多く、明るく優しく努力家の姉は人気ものだった。 一見すると全てを持っている姉。だけど、どこか淋しそうに見える。ぽっかり空いた穴が埋まらない……、そんな気持ちなのだと分かる。 私はまた入退院を繰り返していて、その都度姉を振り回していた。 小学校五年生の冬、おばあちゃんが亡くなった。発見したのは姉。いつも朝ご飯を作ってくれているおばあちゃんが起きて来ない。寝坊したのだと軽い気持ちで起こしに行ったら布団の中で冷たくなっていた。 おばあちゃんはいわゆる老衰で、誰も悪くなかったけど姉は気付かなかった自分を責めた。小学生の子が祖母の死の責任を感じるなんてどれほど辛かっただろうか?その気持ちを考えると胸が張り裂けそうになる。 中学高校と家族を避け、家を出ていく為にバイトに勤しんでいた姉。両親が関係の修復を図ってきても、姉は話を聞かない。今更だもんね……。 ……でも姉は、私が幼少期にあげたものを大事に残しておいてくれた。熊のビーズ編みを化粧ポーチに付けていてくれたなんて全然知らなかった。 それが分かっただけで良い。高校三年生の夏、私が死ぬ日。もう姉の記憶は終わりを迎える。しかし……。 川に流された化粧ポーチを追いかけた。ポーチと私が作った熊のビーズ編みを拾い上げて笑っていた。 家に帰ると決めてくれた、家を出る事を考え直すと考えてくれていた。……私は姉を迎えに行かなければ姉のその思いを聞けたのに……。自分の愚かさにただ悔いた。 その時。 姉は川に流された。 姉は生きる事を諦めている。目を閉じ、顔を水につけたままただ流されていた。 しかし私は諦めない。こうゆう時は下手に体を動かさずに顔を上に向けて体を大の字にして浮かせる。そして服や靴は脱がない。体を浮かせる為だ。 あなたはまだ死ぬべき人ではない。だから私の分まで生きて欲しい。だって神様に選ばれた運命の子なんだから……。
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