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4話 妹になった姉
妹の体が異様に重くて驚いた。
ミルクを哺乳瓶で飲む、泣く、息をする。こんな当たり前の事が苦しいなんて思わなかった。
妹は生きる為に鼻に入れてもらったチューブから栄養を摂り、酸素を流してもらい生きていた。
生きる為には検査と治療が必要。痛さと恐怖があっても妹は毎日我慢していた。
私がおばあちゃんと楽しく過ごしている時に、妹はこんな辛い治療を受けていた。それは想像を絶する苦しみだった。
四歳の時、手術を受ける事になった。当然ながらすごく怖がっている。でも両親を安心させる為に大丈夫だと笑っていた。
四歳で親に気を使う……。本当は怖いのに弱音を吐かない。我慢ばかりで生きてきた妹は、本音を言わなくなっていた。
手術が終わって生まれて初めて家に帰ってくる。でも小さい時は発作ばかりだった妹。その都度、激しい胸の痛みと息苦しさが襲う。こんな苦しみに耐えていたなんて知らなかった……。
退院してもすぐ病院に戻る。先生やお母さんはもう少し入院しようと妹に話すが妹は聞き入れない。
お姉ちゃんはお母さんとお父さんを待っているから……。
いつもそう言っていた。
知らなかった……、そんな事気にしてくれていたなんて……。私は妹に酷い事思っていたのに、妹は私を気にかけていた。なんでこんな良い子を病気で苦しめるの?苦しまないといけないのは悪い子の私の方なのに。
そう思っていた時、私は衝撃の事実を知った。
── 妹がいつ死んでもおかしくない。
そこまで深刻な状況だった。
寝たフリをして両親の話を聞くと、生まれてすぐに宣告されていたらしい。両親は覚悟していた。だからこそいつも側に居て気にかけ、発作を起こした時は二人で救急車に乗っていた。娘との別れになるかもしれなかったから。
命の危険があるに退院していたのも、病院に居ても助からない可能性があったから。妹の意思を尊重していたのだとようやく気付いた。
私がこの話を聞いたという事は、妹はいつ死んでもおかしくないと知っていたのだろう。
五歳で自分が死ぬかもしれないと知ったらどんな気持ちになるのだろう?妹の性格から両親にそんな話はしないだろう。妹はどんな気持ちで生きてきたのか、その気持ちを考えると胸が張り裂けそうになる。
妹は幼稚園に通えず、学校に通う話もなくなり自宅学習になった。退院しても外には出られないカゴの中の鳥状態。私なら到底我慢出来ない。ストレスでおかしくなりそうだった。
しかし妹は何も言わず、登下校している子供達を毎日窓から見ていた……私の事も。楽しそうにしている姿をただ黙って見ていた。
それから妹の状態は少しずつ安定していき、中学高校は学校に通えた。当たり前の事だと思っていたけど、全然当たり前じゃなかったのだと知った。
高校三年の夏、もう記憶は終わる。
そう思っていると妹はお母さんに隠れて外に出た。一人での外出は固く禁じられていて、今まで一度も破った事ないのに。
妹は私と話をしようとしてくれていた。自分が一人で外を出歩ける様子を見せて、両親の関心を引いてしまった事を謝ろうとしてくれていた。
何で別の道を通ってしまったのだろう。そしたら妹には会え、川で溺れて死ぬ事なんてなかったのに……。
まあ、それは私が悪い。だからあなただけでも生きて……。
そう思った時、胸が苦しくなり息苦しさを感じた。今までと違う。息が出来ない。
妹にいつもお母さんが付いていたのはこうゆう理由だとようやく気付いた。本当に命の危険がある子だったんだ……。
妹は目を閉じる。もう死の運命を受け入れているみたいだ。……そんな事、私がさせない!
私は苦しい中ポケットを探る。中にはスマホが入っている。私はワンタッチ操作で救急車を呼んだ。
正直上手くいったか分からない。確かめたくても力がもう出ない。
あなたはまだ死ぬべき人ではない。だから私の分まで生きて欲しい。だって神様に選ばれた運命の子なんだから……。
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