1話 妹になりたい姉

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

1話 妹になりたい姉

── 私はあなたになりたかった……。 それは妹。 妹と言っても年下ではない、数分だけ後に生まれて来た存在。 私達は双子。顔や声は同じだけど違う所がある。私は健康体、妹は病弱という所だ。 生まれてすぐ妹の病気が分かり、お母さんは入院する妹に付き添い、私の世話はおばあちゃんに頼んでいた。 お母さんはお父さんと交代でたまに帰って来てくるけど、疲れたと寝るばかりで私の事は殆ど見てくれなかった。 そんな状態が当たり前になっていた四歳頃、妹の手術が成功し家に帰って来られるようになった。私は嬉しかった、やっと四人で暮らせるようになったと。 ……しかし、穏やかな時間は無かった。 妹は時折、胸を抑えて息苦しそうにする。これは発作と言うらしく、どれだけ安静に過ごしていても突然起きてしまい、防ぐ事は出来ないらしい。 そうなると両親はすごく慌てて救急車を呼ぶ。そして私なんていないかのように妹だけを見ている。 そして救急車に乗って妹と一緒に病院に行く。……私は言われた通り家で待って、またおばあちゃんに預かってもらう事になる。 そんな事が年に何回も起こった。私達の五歳の誕生日にも……。 小学生になる頃、妹の病気は完治するものではなく一生付き合っていかないといけないと知った私はこう思ってしまった。 ── 妹なんか居なければ良かった……と。 そう思う私は最低な人間なのだろうと思った。 家は入退院を繰り返す妹が家の中心。妹が入院したら私はおばあちゃん家に預けられ、妹が退院したら家に帰る。けど、両親が見ているのは妹だけだった。 そんな両親に私は全てを諦めていた。 私達は高校生になった。妹の病気は落ち着き、高校に通えるようになっていた。一人で出歩けないからお母さんが送り迎えしている。 私はそんな妹と同じ高校に行きたくなかったから、わざと成績を下げ別の高校に行くようにした。 同じ高校なら一緒に送れたのに……と言うお母さん。別に今更気にかけたフリなんかしてくれなくて良いよ。 両親は、妹の病状が安定した中学生ぐらいから私を構うようになった。罪悪感か何か知らないけど今更だよね? 本当はおばあちゃん家に行きたかったけど、私が小学五年生の時に亡くなってしまった。 高校生の私が一人暮らしなんて出来ないし、寮があるのは私立高だけ。だから悔しいけど親の厄介になるしかなかった。 高校卒業したらこんな家出てやる。その一心でバイトを詰め込んでいた。夢?そんなものはない。ひたすら家を出る事だけを考えていた。そうしないと人として言ってはいけない事を感情のまま言ってしまいそうだったから……。 高三の夏、私は通帳を眺めて決意した。高校卒業したら家を出る……と。 その旨を伝えると両親は何も言わなかった。お金は出すとだけ言ってくれたけど断った。苦労する事は分かっていた、でも絶対に受け取りたくなかった。 夏休み、私はバイト帰りに川が流れる橋の上で夕日を見ていた。 生まれてくる家が違ったら良かったのに……。 そう思うが、それは変えられない事だから仕方がない。妹は神様に選ばれた子だから……、運命の子だから仕方がないよね。 そう思いながら一人泣いてしまう。 しばらくして顔を上げると日没が近付いていた。私は化粧を直してどこかに行こうと鞄から化粧ポーチを出す。するとビーズ編みで作った熊が太陽の光でキラリと光る。 これは妹が幼い頃作ってくれた物だ。実は化粧ポーチのチャックに付けてある。別に開け閉めしやすいだけでそれ以上の他意はない。 私が鞄の上にポーチを置き、化粧直しをしていたら一筋の風が吹いた。すると中身が空だったポーチは風に吹かれ、橋の下に流れていた川に落ちてしまった。 私は慌てて川に入り追いかけた。すると川の中の石にポーチが引っかかっていた。 すぐに拾い上げ、安堵の溜息を吐く。無事で良かった、ポーチと……妹が作ってくれたビーズ編みの熊が。 太陽に照らされてキラキラ光るビーズに私は笑う。大事な物は失いそうになって分かると言う事なのだろうか?バカみたい、意地張ってたけど私はやはり妹が大事。お母さん、お父さんには愛されたい。 帰ろう。もう一度、家を出るかを考え直そう。もし家を出る事になっても、それは家族から離れたいからではなく夢や目標の為にしよう。 そう思い一歩踏み出した時……。 バシャン! 私は足を滑らせ転けてしまった。慌てて立ちあがろうとするが、足が滑って立つ事が出来ない。 気付いたら私は流されていた。 こんな浅瀬で?そう思ったけど、よくニュースで聞く。泳ぎが上手い大人でも流されて溺れてしまったと……。私は泳げないし、服が重くてより沈んでいく。 その瞬間、私は死を悟った。 天罰とはこの事を言うのだろう……。妹に最低な事を思ったから。だから私は死ぬ。自業自得だ。 だけど神様、最後にお願いがあります。……私が死んだ後、あの世に行く前に妹の人生を経験させて下さい。 病気の体に生まれて来た神様に選ばれた運命の子になりたい。だから神様私を妹にして下さい……。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!