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経験値の差が歴然として僕はひたすら鳴いていた。とにかく僕を追い詰めては休めて、最後は僕から何度も強請った。
『おそるべき セフレおおきや アルファさま』
うん、上手くまとまった!
僕の祖母は俳句の先生をしている、たまに僕も参加するんだけど、僕にはそんなセンスがないみたいでいつも上手くまとまらないんだよね。ここにきて、やっといいのが出来た!! 出来てないか、季語が見当たらない。
まぁそんなことはさておき、行為を繰り返ししていたらすっかり夕方になった。食事もせずにずっとシテいたなんて、なんて破廉恥だ!!
結局なんら話はせず、ただのベッドでの睦言だけで、お互いの話をしないままその日も別れた。今日は早く帰るって祖母に言ってあったから、さすがに二日続けて祖母を放置できないと言い、また送ってもらった。
その時に楓は今日こそ挨拶って言ったけど、もう少し待ってとお願いした。まだ楓と出会ったことさえ話す暇もないまま今日という日がやって来たのに、いきなり孫から聞かされずに相手から話をされるなんて酷いでしょって言って帰らせた。
本当はあのマンションでもう同棲を始めるって言われたけど、無理だよ、いろんな意味で。僕に婚約者がいることについてもまだ話していないし。
「ただいま――」
「お帰り!! 由香里」
勢いよく陽子が玄関に出迎えに来てくれた。
「あれ? 陽子来ていたんだ」
「うん! うちの田舎から野沢菜が届いたから、亜香里さんに持って来たの! あっ梨々花もいるよ、お好み焼きを作っていたんだ。はやくっ、お夕飯だよ」
「そうなんだぁ! ありがとう、楽しみだなぁ」
祖母と友人二人は仲良くしてくれていて、高校時代からよく我が家に遊びに来ていた。たとえ僕がいなくても祖母とお茶をしにくるという、仲の良さ。ありがたいけどね、でも今日は違うはず、きっと今朝の出来事が二人の耳に入ったに違いない。
「由香里、陽子ちゃんとこの野沢菜大量よ! ちょうど今梨々花ちゃんがお好み焼き作ってくれて、今からたこ焼きもするから、早く手を洗ってこっちにきなさいな」
「は――い、おばあちゃん! すぐ行くね」
食卓には見事に粉ものばかり揃っていた、そこに陽子の田舎からの野沢菜は最高のエッセンスだった! 祖母も陽子も梨々花も女オメガでみんな話が合うようでなにより、僕はみんなの会話を聞いて楽しんでいた。主に二人の恋愛トークだったけれどね。
「そういえば、由香里だってそろそろこういう話に参加するべきじゃないかしら? 洋平さんと最近仲良くなってきたのでしょ? 昨日なんて珍しく日付またぎそうな時間に帰ってきたのよ」
「ちょ、おばあちゃん!!」
「あら、いいことじゃない。婚約者とうまくいっているなんて」
「そ、そうだね」
陽子と梨々花が怪訝な顔をしたけど、すぐさま二人に目配せをしてその場は突っ込まずにいてもらった。
「ねえ、亜香里さん! 由香里の話はあとでたっぷり聞き出しておくからさ、私の話きいてよ!!」
「あら、梨々花ちゃん。彼氏と旅行に行く話だったわね」
「そう、それ!!」
ナイス梨々花!! そして夕食は楽しく終わって、あとは若い子たちで楽しみなさいと言われ、片付けが終わると祖母はお風呂にいった。そして僕の部屋で始まるのは、夜な夜な開催される恒例行事のオメガ会だった。
「由香里、どういうこと!? まず亜香里さんに言ってなかったの? お見合い相手が叔父さんに変わったこと」
「う、うん」
梨々花に責められた。そして次は陽子が乗り出してきた。
「っていうか、上條先輩をいつの間に落としたのよ!! 今日の大学大変だったんだよ、まず上條先輩のセフレ達が動揺しだして……これは笑えたから、まぁいいとして。由香里ファンのアルファたちは泣きだすし! これも面白かったからいいんだけど」
「ん?」
「みんな事情が分からなすぎて、誰も真実を知らない。知っているのは校舎で上條先輩が由香里に熱い抱擁のちディープキス!! ねえ、何があったの!?」
そうだよね、そこだけ公衆の面前でしてから二人は大学を後にした。まだ一限目が始まる前の朝早い時間だったけれど、見た人が噂をバラマキ、この二人の耳にも入ったということだった。
「うん、結果だけ言うと、処女を捧げた」
「「ええ――!!」」
「しかも運命の番だった」
「「えええええええ」」
驚くよね、そりゃ、僕もびっくり展開だったよ。
「ちょ、ちょっと順を追って説明しよう、由香里落ち着いて!!」
「いや、落ち着くのは陽子でしょ」
陽子がオロオロしだした、僕はいたって冷静だよ。すると梨々花がフォローに入った。
「そ、そ、そうよ、陽子まず聞くことあるでしょ、由香里うなじはどうなった!?」
「ああ、これ」
二人に、少し長い襟足をかき揚げてうなじにかかる首輪を見せた。
「うわっ、首輪が無残にも……」
「一応、まだ番にはなっていないのね」
「うん」
首輪のうなじ部分は歯型でガチガチになっていた。一応髪で隠れているけど、かなり悲惨な首輪に仕上がっている、一瞬強姦にでもあった? と思われなくもない。
「首輪の鍵は持っていなかったから、番にはなれなかった。危なかったよ、マジで僕を番にする勢いだったから」
「いったい何があったの?」
僕は昨日の出会いから、まあ致したことは簡単に話した。そして今日マンションに連れて行かれたことも、結婚をしようと言われたこともすべて包み隠さずに伝えた。
「じゃあ、上條先輩と結婚して番になるの? 運命だしそれが一番だよね」
「あの婚約者のことは言った?」
「そう、そこなんだよね。結局昨日も今日も二人とも盛っていて、何一つ話をしていないんだ、どうしよう」
「どうしようって、まずは亜香里さんに運命に会ったこと言ったほうがいいんじゃない?」
「いや、ちょっと待って。上條先輩は他のセフレとまずは切れているの?」
なんだか頭がいっぱいだった。問題山積みじゃない?
「何から整理するべき? 僕昨日からヤリっぱなしで正直何を考えるべきなのかも分かってない」
僕は二人に普通に聞いたけど、二人は顔を赤らめた。
「ヤ、ヤリっぱ……由香里の口からそんなセリフを聞く日がくるとは。でもそうだよね、まずは小湊との婚約問題じゃない?」
「由香里が大人の階段を……。じゃあ整理するとだよ、婚約者との結婚は絶対で、運命と出会って番になる? これって二股!?」
「それいうなら、上條先輩は何股か分からなくない!?」
オメガ女子たち言いたい放題だった。
「ちょっと、真面目に考えてよ」
「でも、私達も分からないよ、そもそも運命なんて本当に存在したんだね、そこに驚き!!」
「運命って、どんな感じ?」
どんな感じって、言葉に現すのが難しい。
「ズドーン?」
「ははっ!! なにそれ」
「由香里、語彙力なさ過ぎ!!」
大笑いされた。
「いやいや、そういうけど凄い衝撃だったんだよ。ズドーンとしか言いようがない」
「でもさすが由香里だよ、運命が上條先輩だなんていきなりの大物!! 処女喪失にはもってこいの相手だったね。で、喪失した後は……当初の予定通りこれであのオジサンと結婚ってわけにいかなくなったよね?」
「そこだよね、でもいくら運命が現れたからって僕のこれまで生きてきた過去を変えることはできないし、僕とおばあちゃんが生きてこられたのも小湊との契約のお陰でしょ。だから運命が現れたところで僕の人生が変えることは出来ない。なのに楓はどんどん先をいって、もちろん僕も楓が好きだけど、でもどうしようもなくない!?」
「……由香里」
「やっぱり亜香里さんに言った方が」
僕たち三人はう――ん、と唸って結果がでないまま夜は更けていった。
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