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お昼は楓と約束していたから、二人と別れて学食へ向かった。楓はまだ来ていないみたいでお茶を飲んで待っていると、一人の男に声をかけられた。
「由香里さん、お昼に一人珍しいね。いつもオメガ友達ががっちりガードしているから話しかけられなかったけど、一人なら一緒にご飯しない?」
「あっ、人を待っているんです。ごめんなさい」
誰だ? この人。見目がいいからアルファ……かな? いつも二人ががっちりガードしてくれる時はなかなか話しかけられないけれど、一人でいる時は大抵すぐに声がかかる。やだな、こんな所を楓に見られたくない。早く追い払わなくちゃ。
「友達? じゃあ来るまででいいから俺の話聞いて! 由香里さんのことずっと好きだったんだ、俺とデートしてください」
「あの。僕、カレ…」
「彼氏いるから」
僕は彼氏がいると言おうとしたら、その言葉に乗っかって被せてきたのは楓だった。
「楓!!」
「由香里、一人にしてごめんね。怖い思いしたね」
楓は僕を後ろから抱きしめて僕のこめかみにキスをした。たちまち目の前の人が驚いた顔をした、僕も驚いたよ。それに僕をどこかのお姫様かとでも思っているのかな、こういうナンパは慣れているから怖い思いなんてもうさすがにないんだけどね。でもいいか、僕のアルファかっこいい!! ナイトみたいだった。
「な、なんで上條が由香里様の彼氏なんだよ、この子は孤高のお姫様で誰のモノでもなかった!!」
「ココウのオヒメサマ?」
な、な、なにそれ。なんか恥ずかしいあだ名がついていないか? 高嶺のオメガ以外にそんなメルヘンな呼び名があったなんて。
「そうだよ、由香里様は誰にも堕ちないけど、君に話しかけたいアルファは山ほどいる、俺たちの中ではそれなりのステータスが無くちゃ話しかけちゃいけないのと、友達といる時の告白はだめって言うのが決まりであったから、だからやっときたチャンスだったのに、嘘だよね、上條に脅されているんだよね?」
「ゆ、ゆかりサマ!? えっ、ごめんなさい、僕は楓と付き合っています」
由香里様ってなに!? 目の前のアルファの言っていることの半分も理解できなかった、僕は『高嶺のオメガ』と呼ばれている自覚はあったけれど、まさかに本当のオヒメサマ扱いだったとは!? 僕こんな華やかな見た目だけど祖母と二人暮らしの平民。何がどうして由香里様なわけ!?
「そういうことだ、諦めろ。お前ごとき由香里に相手にもされないし、そもそも俺と由香里は付き合っている。俺たちは運命の番なんだ」
「う、運命!?」
「「「うわ――!!」」」
いきなり周りから凄い歓声が飛び交って、ビクッとした。
ここお昼時の学食、そもそも人が多い時間帯、楓はもとから目立つ存在。そして僕もそれなりに目立つオメガ、その二人が運命だと知れ渡って学食内は大盛り上がりだった。
みんな聞き耳立て過ぎじゃない!?
「そうだよ、俺たちは運命の番。出会うべくして出会ったんだ。由香里、今日はもうここを出よう、ちょっと騒がしくなっちゃったからね」
「騒がしくしたのは楓でしょ。僕お腹ぺこぺこなのに」
「外でゆっくり食べようね、次は授業なかったよね、また午後の授業に戻ってくればいいよ」
僕は授業スケジュールを言った覚えはない、さすがアルファ。もうすでに僕のスケジュールを把握していた。いったいどんなスキルを使ったのだろう、気になるけれど仕方ない。梨々花のモト彼が執着アルファでそういう愚痴はいつも聞かされてきたから、これがアルファの執着かと瞬時に理解した。
僕は愛されているということを一瞬で感じられて、僕の全てを勝手に知ろうとする楓に愛しさしかなかった。
「ありがとう! 僕のスケジュールを把握していてくれて、じゃあ楓とお外デートしようかな」
「デート。うん!! デートに行こう!!」
周りが僕たちにコトの真相を聞き出そうとするも、楓は軽くあしらって僕しか見ていない。僕も楓の腕に手を回して一緒にその場を去った。もちろん僕の荷物は楓が持ってくれたので僕は楓の手を両手で独占したのだった。
一組のバカップルの誕生に、大学内は騒然としていた。
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