5 出会いから三日目

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 連れてきてもらったところは、なんとも言えない高級感あふれるところだった。きっとこの人の世界はこれが当たり前なんだ、僕はちょっと引いた。 「楓、僕こんな格好だし、ちょっと場違いじゃない?」 「えっ、由香里は何を着ていても可愛いから場違いな場所なんてないでしょ、大丈夫。個室に入るから人の目は気にならないよ。でも気になるなら俺が由香里の着るものは今後全て用意するから、もう自分で服は買わないでね、俺の恋人に俺の選んだ服を着せるなんて楽しみがまた増えちゃった」  僕は何一つ了承していないけれど、楓の中でまた一つ何かが決まったみたい。そんな話をしながら料亭の個室に連れていかれた。素敵な着物を着た女将らしき人が楓に挨拶に来た。僕はこんな見た目だけど、おばあちゃんっ子の庶民だから豪華な場所は戸惑う。  これまでのアルファからのデートに連れていかれるところは素敵な場所が多かったけれど、それなりに学生たちが相手だったからどこも気負う場所はなかったのに、いきなり初デートでこんな政治家が密会するような場所?  「ごめんね、可愛い由香里を誰にも見せたくなくて。ここのスタッフは優秀だし客のプライバシーは重視してくれる貴重な場所なんだ。それに由香里は和食が好きでしょ、嫌だった?」 「ううん、僕と出会ってまだ三日目なのに色々と知ろうとしてくれて嬉しいなって思って、ありがとう」  いったいどこからの情報で僕が和食好きと知っているのだろうか? アルファの調査能力は摩訶不思議すぎて、そこは気にしたら一生アルファと付き合えないからっていう、梨々花からのアドバイスが今とても役に立った。  豪華な懐石料理? 一気にすべての料理が出されたからコースではないのだろう。大きくて漆のような入れ物のお弁当箱に、宝石箱のようにきれいに和の食材が入っていた。とにかく豪華なお弁当と汁物などがだされて、そこからは誰も出入りせず楓と二人きりだったから、僕はホッとした。楓が誰にも邪魔されたくないから、全て持ってきてもらったって言っていた。  まだ出会って三日目なのに、なんで楓と二人きりだとこんなにホッとするんだろう。まるで前からずっと一緒にいたかのような、空気のようなそれでいてなくてはならない片割れのような不思議な感覚だった。  食事は豪華だけどとても繊細でおいしかった。楓は箸をとめて僕をじっと見ている、なんだろう? 「楓、美味しいね! 食べないの?」 「あ、ごめん。お箸を綺麗に持つ由香里に見とれていた」 「なに、それ。お箸位ふつうに持つでしょ」  面白いことを言う楓を見て僕は笑った。 「いや、とっても綺麗だよ、姿勢もそうだしすべてが美しい」 「美しいって、やめてよ。そんなに見られたら食べづらいでしょ」 「あ、ああ。そうだよね。ごめん、由香里が綺麗すぎるからつい。俺の恋人がこんなに綺麗で可愛くて、ご飯を食べる口は優雅なのに妖艶で、俺もう胸がいっぱいで食事が喉を通らないし、どうにかなりそうだったよ」  どういう意味だろう、大丈夫かな。 「楓、大丈夫? ごはんやめて少しお休みする?」 「な、な、なんで由香里がここのシステムを知っているんだ!! まさか、ここに男と来たことが!? 誰だ! ここは会員制だからすぐに相手は分かる、今すぐ誰とここに来たのか言わないと、俺は顧客情報を開示して貰ってその男に報復を、」  急に楓が怒り出した。今怒るポイントなんてあった? 楓の体調を心配しただけなのに、もしかしてアルファって、体調を心配されることさえプライドが許さない? 「ちょ、ちょっと待って。楓が何を言っているのか分からない。ここのシステムって何のこと? 僕ここに来たのは初めてだから本当に意味が分からなくて、怒っている雰囲気だけは分かるから、ごめんなさい。オメガがアルファの体調を心配するとか出過ぎた真似をして」 「えっ? し、心配? 体調って、俺の?」 「だってどうにかなりそうって今困った顔して言っていたし、お箸進まなかったから、そうなのかなって」  楓の顔がいきなり緩んだ、フェロモンも先ほどの凶悪なものから柔らかい雰囲気に変わった。運命のフェロモンってこんなにも変化に過敏なのかな? 他のアルファのフェロモンをここまで強く感じたことないし、怒りとか喜びがフェロモンで分かるなんて聞いたことない、やっぱり運命って都市伝説とされるくらいだから、凄く不思議な現象が起こるのかな。 「ごめんね、由香里が綺麗だからどうしてもすぐに他の男の影を探しちゃう。本当にごめん、ここは休憩も出来る場所で、商談の後とかに体の相性を確かめて……まあ体を使った取引も行われるため隣には布団を用意してもらえる仕組みなんだよ」 「へえ、そんな時代劇みたいな仕組みって本当にあったんだ」 「時代劇って……」  楓が苦笑いする……ん? てことはだよ。楓もここでそれをしたことあるってこと? 「楓もここでオメガを抱いたことあるんだ?」 「いや、ない、オメガはない」 「ふ――ん、じゃあアルファ?」 「うっ、その、俺は、ごめんなさい!! 俺の家系って運命と高確率で出会う血筋みたいで、だから運命以外は真面目に相手にしないって決めていて。だから体だけの軽い関係はあまり拒むこともなくて、ここでは仕事の商談の後に誘われるままに女を抱いたことはあった。仕事関係だからアルファ女性しかここではないけど……」 「ここでは!?」  マジか、大学内だけじゃなくてこういうところでも女性を? ちょっと奔放過ぎない? 楓が困った顔してオロオロしている。 「僕に何か純潔みたいのを求めるくせに、自分はずいぶん奔放な過去をお持ちなようで」 「あっ、いや、ほんとごめん。もう由香里一筋だから、というか誰かにはまった事なんて無いから、ほんとに今までの相手は体だけで誰かと付き合ったことは、この年で恥ずかしいんだけど無いんだよ。だからデートにもどこに連れていこうか昨日一生懸命考えて……」  なにそれ、可愛すぎ。だからこんなおじさんみたいなデートなわけ? ちょっとおかしくなった。 「ふふ、もういいよ。分かったから、お互い過去は仕方ないもんね。楓ももうこれ以上あることないこと色々想像して怒らないでね。僕は知っての通り楓に初めてを捧げたんだから、この事実だけで十分でしょ?」 「うん、そうだね。そうだった、俺が由香里の最初で最後の男になるんだ」 「だから自信もってね! 僕のアルファ様!!」  二人で楽しく食事をして、大学に戻った。放課後も僕とマンションに行きたいと言われたけど、どうせまたサカルことしか想像できなかったから、今日は祖母と約束があると言って断ると家まで送ってくれた。 「由香里、今日こそおばあさんに挨拶したい」 「もう! 僕は楓と出会ってから凄くハードで、体がグダグダでゆっくりおばあちゃんと話す時間もなかったんだよ。まだ僕おばあちゃんに楓のこと話せてない。僕から楓のこと話してからだって言ったよね? ね、もう少し待っていてね」 「う、分かった」  納得していないようだけど、あまり言うと僕の機嫌が悪くなると思ったのだろう、あっさり引き下がってくれた、熱いキスをしてからだったけどね。
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