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「由香里、急に来てもらって悪かったね。このホテルで会合があったから」
「いえ、僕の方こそ急にお時間作っていただきありがとうございます」
僕の手を当たり前のように触って、握ってきた。気持ち悪い。
「あ、あの」
「婚約者なんだから、エスコートさせてくれ」
「……はい」
エレベーターに乗せられて上の階へと上がる。
「あの、どこに向かっているんですか?」
「ああ、部屋を取ったからそこでゆっくりしよう」
「えっ」
「そんなに警戒するな。今はホテルのラウンジも混んでいるから、部屋でコーヒーを頼んで話をするだけだよ」
本当に? でも個室なら僕の方が有利だ。僕のフェロモンを浴びれば僕は逃げることも出来るから、っておかしいか。婚約者から逃げることを前提に部屋に行くのも。でも何から話そうか悩む。個室の方が都合いいかもしれない、婚約解消話を人が多いところで言うのもお互いに気まずいだろうから。
部屋に着いてコーヒーを頼むと、ウェイターが持ってきてくれた。
「由香里、今日もとても綺麗だよ」
「ありがとうございます。あの、事前に連絡した通り、今日はこの首輪の鍵をもらいたくて」
「どうして? 今すぐ俺と番になる気になった? でも発情期まではまだ一ヶ月あるよね?」
なんで僕の発情周期を知っているんだ!? 気持ちが悪い。
「いえ、そうではなくて。ちょっと首輪に傷がついてしまって新しいのに変えたいんです」
「それなら、すぐ新しいのを用意するからそしたら俺がまた付け直してあげるよ」
どうしよう、なんかもう本題に入るしか無いかも。
「その、僕、運命の番と出会ってしまったんです」
「な、なんだって!?」
小湊が驚いて大声を上げた。
「その人と番になりたくて、それでこの婚約を無かったことにしていただけませんか? これまで安里家に支払ってくれた費用は一生かかってもお返しします」
「由香里、そいつと寝たのか!?」
「そ、それは」
「婚約者がいながら、他のアルファに股を開くとは、なんという淫乱オメガだ!! くそっ! これは不貞だ、許さない」
どうしよう、穏便に話すのは無理だ。だってめちゃくちゃ怒っている!!
「あっ!」
急に腕を掴まれて、顔を床に押し付けられた。
「くそっ! そのアルファが首輪を噛んだんだな!!」
「痛っ」
上から頭を押さえられて、ひと目でこれが噛み跡だと分かる首輪のうなじ部分を見られた。番になりたいけれど首輪が邪魔して噛めなかった、そんな跡にしか見えない。
僕は人が凄く怒っているのを見るのは、実は初めてで恐怖に固まった。生まれた時からこの容姿でチヤホヤされてきたし、無理やり従えるような人種が周りにいなかったせいもあり、人がここまで怒るということを僕は知らなかった。
今度は無理やり起こされて、ベッドに放り投げられた。えっ、な、なに!? 何が始まるの。
鍵を取り出して、首輪を外された。
「由香里ほどの美しさなら、処女じゃなくても仕方ない。だがお前を他の男になんてやるわけないだろ!! 今すぐここで犯してやる。婚姻届も今日提出する」
「えっ!?」
「まずは、俺のオメガを味合わせろ! 自ら服を脱ぐか、俺に脱がされるか選べ」
「や、やだ! どっちも嫌です! 話し合いをしましょう」
小湊が僕にのしかかってきた。気持ち悪いっ、気持ち悪いっ、早く気絶して!! そう思うも、僕は今なんの興奮もしていない、性的に興奮しないと強いフェロモンは出ないから気絶する前に犯されてしまうかもしれない。
嫌だ! 嫌だ!!
「いやっ、か、楓!! 助けてっ」
「他の男の名前を言うな!」
僕の服を無理やり脱がそうとするも、抵抗されてそれが無理だと判断した小湊は、服を豪快に破った。その時、思わず楓の名前を言ってしまった僕の頬を殴ってきた。
「ううっ」
僕は人生で初めて人から暴力を受けた。もう怖くてたまらない、話し合いが出来る、特殊フェロモンを出せるから大丈夫なんて、どうしてそんな安易な考えでここまでついてきてしまったのだろう、どの道この男が旦那になるなど、僕には無理だった。
たとえ楓と出会っていなかったにしても、こんな男は耐えられなかっただろう。
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