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番なったことで楓は満足したみたいで、僕が家に帰りたいと言ったら約束通り送ってくれた。終始ニコニコだよ。僕は冷静になってちょっと怒っているけどね。
「おばあちゃん!!」
「由香里!!」
帰宅すると祖母に抱き着いた。事前に楓は祖母に全てを話していた。祖母もまさか僕が達夫に無理やり犯される寸前だとは思わなかったみたいで、梨々花と一緒に震えていたらしい。梨々花は心配で祖母にずっと付き添ってくれていて、陽子もその後合流してくれて祖母の近くにいてくれた。
二人の親友には感謝しかなかった。
「由香里ぃ!!」
「梨々花、陽子、おばあちゃんと一緒にいてくれてありがとう。それと心配かけてごめんね」
「もう!! バカ!!」
「心配したんだからね!」
二人は涙しながら僕を抱きしめた。
「梨々花ちゃん、陽子ちゃん、俺の由香里を支えてくれてありがとう」
「上條先輩……」
感謝の気持ちをいいながらも、僕を引き離して楓の腕の中に戻された。ちょっと!? 感動の抱擁も許してくれないわけ!?
「亜香里さん、事後報告になりますが、さきほど由香里と番契約をしました」
「まぁ!」
「「えええぇ――!!」」
祖母も親友たちも驚く。
そりゃそうだ、だって発情期でもなかったのに契約しているって犯罪以外考えられなくない? 促進剤使ったとかさ。そもそもさっきまでヤッていましたって言っているんだよ、祖母はまだ僕が処女だと思っていたかもしれないのにさ、なんて恥ずかしいことを僕の了承なく言ってくれちゃっているの!?
僕は怒りを通り越して、三人の前で真実を突き付けられて恥ずかしかった。
そんな僕を見て、微笑む楓。何を勘違いしているのかが分かってしまい、僕は呆れてしまう。どうせ恥ずかしがって俯く僕が番になれて嬉しい、でも恥ずかしいっ、みんなの前でやめてヨォ、くらいの副音声が楓の頭の中に流れているんだと思う。
実際は、勝手に番のことまで僕の祖母や親友に報告してするってなに!? 大切な人には自分のことは自分の口から言いたいのにぃー!! だった。しかも、清々しい気持ちなんかなくて、事後報告になったことが悔しくてたまらない。僕はみんなに祝福されて、楓のことを認めてもらってから、堂々と番になりたかったのに。
「すぐに入籍して盛大に結婚式をと思っています」
「は!? なんで勝手に決めるの!! 僕はプロポーズが先って言ったでしょ!!」
その話は僕了承していないのに、また勝手に!!
「じゃあ、今夜夜景の見えるレストランに行こう、そこでプロポーズの仕切り直しをさせてくれ」
「じゃあって何? 楓は僕の意見も聞かずにどんどん先に進めるから、これからは僕の意見にも従ってもらいます。結婚はまだしません!」
「ええ!? な、なんで」
「僕まだおばあちゃんとこの家で暮らすから」
「だ、だめだ!! もう番なんだから一緒に暮らすのが普通だろ」
二人でいきなり喧嘩を始めるから、祖母も陽子も梨々花までもが唖然としている。
「ま、まあまあ、さっき契約したんでしょ。お互いに盛り上がっているみたいだし、細かい話はちょっと落ち着いてからでもね。もう由香里はあなたのオメガなのだから、由香里にも少し時間を上げてちょうだいな?」
「亜香里さん、でも俺は由香里を妻にしたいんです」
「だから!! 結婚しないなんて言ってないじゃん。僕はもう少しゆっくりって言っているの!! あんなことがあった後に時間くらいくれても良くない!? 楓は横暴過ぎる、今はただおばあちゃんと一緒に過ごして落ち着きたいの!」
ふ――ふ――と言う僕を、祖母がポンポンってしてくれた。
「ほらほら、せっかく番ができたばかりなのに喧嘩なんてやめなさい、やっと由香里の好きな人とこれからを歩めるんでしょ。さっき二人から聞いたのよ、由香里がどれほど楓さんを好きになったかって話を、だからおばあちゃんとっても嬉しいの、おばあちゃんだっておじいちゃんと運命だったのよ、だからその幸せは痛いほど分かるわ、それなのにあなたに小湊さんとのことで、おばあちゃんの過去で辛い思いをさせてしまって悪かったって思うわ。本当にごめんなさいね、頼りないおばあちゃんで」
「おばあちゃん……そんなことない、そのおかげで今日まで生きてこられたんだから!! おばあちゃんには感謝しかないよ」
僕と祖母の会話から、楓の香りが少し穏やかになったのが、僕の鼻腔に入ってきた。
「亜香里さん、確かにあなたの決断があったからこそ、由香里は今日まで清くここまで生きてこられたんです。俺の番をここまで育ててくれて感謝しかありません。今日は由香里もおばあちゃんに甘えたほうがいいね、また明日会おう。これからのこともっと冷静に話してゆっくり進めていこう。番になってくれてありがとう、愛している」
「楓……ありがとう」
さすがの楓も色々と理解したみたいで、ちょっと落ち着いた。陽子と梨々花も、楓とともに帰っていった。
そして祖母に甘えてその日は、楓と出会ってから今日までのことを全て祖母に話した。洋平さんのことや達夫のことも含めて。祖母は僕の頭を撫でて、よくここまで一人でがんばったわねって涙を流しながら聞いてくれた。
でも実際は親友二人が親身になって聞いてくれていたし、僕は決して一人じゃなかった。祖母の存在も大きかったし、やっと全ての秘密を祖母に打ち明けることができて僕はとても晴れやかな気持ちになれた。
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