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9 僕たちの日常
あれから楓とは普通に大学生活を送っている。番になったことで一応は楓の中でも安心要素が出来たみたいで、僕があまりに拒絶するから結婚のことはゆっくり進めると言ってくれた。そして大学内では運命の番カップルとして有名になっていた。
いつでも一緒にいて、登下校も送り迎えはあたりまえ、僕の家に居座り祖母と一緒に三人で過ごすことが多かった。二人きりで過ごさないのには理由があった。
***
「え……」
「だから、次の発情期までお触り禁止です」
「な、なんで。やっと番になったのに」
「やっとって、出会って五日で番にした人が言うセリフ!?」
僕はやはり、強制的に発情させられたことに怒りは収まっていなかった。番になるのは楓しかいないし、彼が大好きだったから番自体は問題ないけれど、これから一生を過ごすなら一か月待って自然に発情期にロマンティックに番になるってので良かったじゃん!!
ということで、発情期まではエッチ禁止にした。
出会ってからずっとヤリっぱってのもおかしいと思うし、もし今後僕が妊娠でもしたら、楓の精力はどうやって消化するわけ!? 一か月も待てが出来ない人と将来子供を作るのは難しいと言ったら、なんとか待てが出来るようになった。だけどマンションで二人きりになると抱きたくなるからと、あえて祖母を交えての時間が増えたわけだった。
祖母にも楓を知って貰う良い機会だったから、僕は嬉しいしかなかった。もちろん大学に行けばずっと二人で過ごせるし、二人きりの時間がないわけではない。
相変わらず独占欲だとか、執着欲だとかは、僕が予想しない時にいきなりやってくる。
それでも僕は楓が一番で、大好きだから嫉妬してくれるのは嬉しいってその都度、愛を伝えればしゅんってすぐにその変な怒りは収まるから、ちょっとおもしろい。
最近ではわざと嫉妬をちらつかせる行為をしては、怒らせて、仲直りというのを楽しんでしていた。
「桐谷君、久しぶりだねぇ」
「由香里ちゃん、ついに人の番になってしまった」
「人の番って……でも僕とはお友達でしょ、また同じ授業一緒にがんばろうね!」
「由香里ちゃん!! 番がいても俺、由香里ちゃんのこと……」
そこでタイミング良すぎる登場の、僕の彼氏が僕を後ろから抱きしめる。
「楓っ!」
「由香里、堂々と他の男とお友達宣言? そんなの俺、許さないよ」
桐谷君を睨みながら、言葉は僕に向けている。ほんと嫉妬深いし、レーダーが半端ないよ。
「そこの君さぁ、俺の由香里といつまでも友達でいられると思っている? えっと桐谷の御曹司さんだったかな? あまり由香里にちょっかい出すと、うちとの取引……」
「すいませんでしたぁ! 由香里ちゃん、お幸せにね」
「あっ、桐谷君」
楓は酷いなぁ、桐谷君のお家のこと調べたの? これ脅しだよね。僕の友達は陽子と梨々花だけしか認めないってこの間言われたんだった。まぁ、僕にとって二人を認めてくれるならもうそれでいいんだけどね。
「由香里、俺の言いつけ忘れた?」
「そんなことないよ? 桐谷君とは同じ授業もあるし仲悪くしたら勉強にならないでしょ? あくまでもクラスの中だけの仲って意味だよ? もう、楓ほんと可愛いなぁ、僕のことそんなに好き?」
「ああ、たまらなく好き。お仕置きさせて?」
「ふふっ、なんのお仕置きなの? 僕は楓の言う通り友達はオメガの二人だけだし、楓が桐谷君に嫉妬してくれるのを嬉しいとしか思わないのに、これじゃご褒美だよ?」
楓が破顔した。
ほらね、ヤンデレなんてこんなもん。僕が全てを認めたら、それはただの溺愛だからね! 簡単でしょ。
「もう、俺由香里を抱けてなくて限界なのに、そうやって俺をまた喜ばせるんだよなぁ――。あぁまたチャンスが消えた、お仕置きという名目で抱き潰そうとしたのにな、それ言われたら俺また待てするしかない」
「待てが出来る楓が好きっ。僕を尊重してくれてありがとう! 次の発情期が本当に楽しみだね」
「う――可憐な由香里が、たまに小悪魔に見えるのは何故だろう」
「じゃあ、特別に僕からご褒美、ちゅっ」
キスすら禁止していたのに、僕から軽めのキスをした。校内だけど気にしない、僕の男に誰も手を出さないでねって意味を込めて、あえて人が多いこの場所でキスをした。
「由香里、ありがとう」
楓も喜んでくれている、僕はこんな普通の日常が送れて幸せを噛み締めながら、二人で手を繋いで大学を後にした。
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