2 物語のはじまり

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 せめて処女だけは失いたい。初めての相手があれじゃやっぱり嫌だ!! オメガなんて発情期には勝手に濡れて受け入れるんだから、処女かどうかなんて分からない。  そこで僕はそこそこのアルファを捕まえてはデートしているんだけど、みんなその場になると……うっとりしだして気絶しちゃうんだよね。どういうこと!?   しかも前後を覚えていないらしく、いつの間にか僕とヤって最高に気持ちよかったという話でまとまっていた。  いやいや、あなた達ヤる前に勝手に気絶したよね? って言いたい。  大学に入ると、僕の美貌と、フェロモンが薔薇ということで高貴なイメージが勝手についてまわり『高嶺(たかね)のオメガ』と陰で言われるようになった。高額取引されたオメガだから、本当は『高値(たかね)のオメガ』なんだけどね、その呼び名を聞いた時は笑った。うまく作ったねって思ってさ。  僕の祖母の亜香里も僕の産みの母の香里奈もとても綺麗な人だった。僕は男だけどその二人の遺伝子が強く出ていてオメガとして最上級の美しさと、代々薔薇のフェロモンを受け継いでいた。  祖母に聞いたところ、祖母の家系のオメガは昔からオメガ性が強くその辺のアルファでは相手ができないフェロモンを持っていると言っていた。  なに……それ。  よっぽどの強いアルファではないと発情フェロモンに堪えられないから、襲われる心配はないわよって言われたことがあったけれど、いざ自分がそういうことをしようと思った時に、これか!? と思った。  僕って迷惑フェロモン野郎じゃないか!!   それよりも、そんな強いフェロモンに耐えられるアルファってどこにいるのぉ!?  そんな美しさと、発情さえしなければ普通にいい香りのするオメガであった僕は噂の的になり『高嶺のオメガ』をデートに誘う男は後を絶たなかった。そして僕の処女を捧げる相手は慎重に選びたいから、デートは程よく断っていると本当の意味で高嶺の花と呼ばれるようになった。  *** 「でも相手がフェロモンで気絶するなんて、由香里、結婚したところで相手と関係持てないんじゃない?」 「そう、それ! 僕も気になっていたんだけど、それならそれでラッキーって思うことにした。むこうは勝手に初夜を過ごしたと思うわけでしょ。嬉しいしかない発見だった!」 「だったら、なおさらもう男漁りはやめたら?」 「それでも、オメガなら一度は経験したいじゃん! 結婚してから誰かと関係持つなんて不貞になってしまうでしょ。だから後腐れなく遊び人のアルファ探しているのにさ、みんな役に立たない」  二人は呆れた顔をした。 「あっ!! それならピッタリの人がいる」 「陽子、それって……もしかして上條先輩?」 「梨々花も分かる!? あの人なら由香里のフェロモンにも耐えられるし、遊び人だし、セフレが多いから一回相手してもらうだけで、望まなければその場だけで済むはず」  二人が知っている人? 誰だろう、僕達まだ大学に入学してそんなに経ってないけれど、オメガ女子の情報は流石だ。にしてもそんな最低な人種がいるんだ、大学って凄いな。 「遊び人はともかく、フェロモンに堪えられるってどういうこと?」 「あの人アルファの中のアルファ、上位種(じょういしゅ)って知っている? 珍しいから見たことないと思うけど、とにかく優秀な遺伝子のアルファ! だから大抵のフェロモンには耐性があるみたい。私の友達は発情期に相手してもらったって言っていたよ。首輪を外しても絶対に噛まないって! 凄くない?」 「へぇ、それは凄い」  上位種アルファ……。  たまに聞く話だけど実際に見たことはない。アルファとはただでさえ上位にいる人種だけれども、アルファの中にも階級がある、その中でとびきり凄い能力を持ったりする家系、そうか上條……たしかにアルファとしては一流企業で有名な家だった。 「でも、流石にそんな上位に近づくのは難しくない?」 「えっ、由香里なら問題ないでしょ」 「どういうこと?」 「だってあの人、寝る相手は顔で選んでいるって有名だから! もちろんオメガなら男も相手にしているみたいだし」  それは興味深いな。 「それでその人って、どんな人? どこで会えるの?」 「えっと、あっ大学内のアルファ専用ラウンジにはよくいるよ。上條先輩目当ての子はその近くで待機しているからすぐ分かると思う。でもそんな肉食女子の中に、由香里がいるのは想像つかないなあ、まぁまずは由香里の好みに合うか見てみよう!」 「梨々花、そこは大丈夫じゃない? 上條先輩は最上級アルファだよ、メッチャかっこいいし、由香里絶対に気に入るから!」 「確かに、陽子はこないだ遠目で見て、失神する――って言ってたくらいだもんね」 「いやいや、マジであのレベルはそこらにはいないからね」  目の超えた二人が言うなら間違いない。二人ともすでにアルファの彼氏持ちで、たまに僕も会うけれどかなりのイケメンだった。   「そう、それは楽しみだな、よし! 明日そこに行ってみよう!」 「「おお――!!」」  二人は高校からの大事な友人だからこそ、僕の事情をよく理解して協力をしてくれる。というか楽しんでいるだけっていうふうにも見えるけどね。 「あっ、いけない! もうこんな時間だ」 「そっか、今日顔合わせだったね。おつ!」 「由香里、頑張れ!」
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