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3 運命の出会い
イケメンの会社員が声をかけてきた。一人でどっぷりと不幸に酔いしれる時間もないわけ!?
「君、モデル? すごく綺麗だね」
「ありがとう」
「はは、声かけられ慣れているね」
「ま、それなりに」
「ここ、座ってもいい?」
図々しいスーツめ! ん、でもちょっと格好いいかな、アルファかなぁ? 僕の見目がいいからっていっても、手当たりしだい誰でも声を掛けてくることはない。よっぽど自分に自信のある人しか来ないからそれは助かる。
前に声をかけてきた人が言っていた。自分じゃ釣り合わないお前ならイケるだろうと、友人に言われて声をかけたんだって。大抵の男はまず美人すぎる君に声をかけられないんだよと、自分がいかに優秀かを僕にプレゼンしてきた男がそう言っていた。
きっと目の前の男もう優秀な部類なのだろう、スーツが高級そうだ。
「今は仕事中ですか?」
「うん、でも君と出会えたのも何かの縁だし、もう仕事切り上げようかな、飲みに行かない?」
いったいどんな縁だと言うのだ。ただカフェに座っていたら声をかけてきただけなのに、どこに縁があるのか不思議だったけれど、もしかしたらこの人ならいけるかな? 図太そうだし。
「いいよ、どこに連れていってくれるの?」
「じゃあ、向かいのホテルのバーは?」
またあそこ!? もうなんなのだろう、そして部屋に連れていく流れだよね、まぁいいか。僕には時間が無いし、この人と初体験が済むならもうそれでいいや、小湊はさすがにもうあのホテルには居ないよね? そう思って答えようとしたら急にざわざわとしだした。目の前の男はあたりを見回してぼそっと言った。
「あれ、ジュニアがいる」
「ジュニア?」
「ああ、俺ここのビルの上條の社員だけど、今日は大学生の跡取りが会社に来ていたみたい。彼、上位種アルファっていわれる最高級のサラブレットだから、来るとたちまち社員たちが色めき立つんだよね。君みたいな綺麗な子は目をつけられたら大変だ。ここはもういない方がいい、はやくホテルへ行こうか」
ちょっと!! バーに行くんじゃなくてホテルへ行くになっているよ、この人。まぁいいけど。でも上條先輩という人を一目見てみたいってちょっと興味がわいちゃった。その人が指さした方向を見てみたら、めちゃくちゃ美丈夫がそこにいた。そしてこっちを見て目を見開いている? まるで新種の生物にでも会ったかのような驚きの目をしてきたが、今まで見たこともないような美形のアルファがそこにいた。
「えっ、あっ、な、なんで」
「うわっ、なにこの香り、君、発情期だったの!?」
僕からたちまちローズの香りがはじけ出した。
あのアルファ……上條先輩を見た瞬間、僕の内面が燃え上がるような衝撃がきた。そして僕はその場で、公衆の面前で予期せぬ発情が始まった。まずい、このままじゃここにいるアルファが全員倒れちゃう!! 僕は公衆わいせつ罪でつかまる!? おばあちゃんに迷惑がかかる、どうしよう、くるしいっ、あついっ。
うずくまるとそこに、先ほどの上條先輩が息をきらせて駆け寄ってきた。僕を捕まえて抱きしめる。
「えっ!!」
「俺の運命、やっと会えた」
「う、んめい? あっ、だめ」
「ここじゃまずい。抱き上げるから俺の胸に顔をうずめて少しだけ耐えて……」
「あっ」
その人に抱きかかえられて、胸に顔をうずめるともうダメだった。発情は最大級に引き出されて僕は一生懸命その人にしがみついた。せめて二人きりになるまで頑張ってと耳もとでささやくその声が、僕を誘う。
僕の運命……本能で分かった。
彼は僕より先に運命に気がついて僕をじっと見ていたと言った。そして目が合った瞬間、僕が発情した。これはもう抗えない運命の番だった。まさか結婚相手と会ったその日に、運命と出会ってしまうなんて。僕はそんな想いよりもなによりも嬉しくて仕方なかった。やっと出会えた。
「……僕の運命」
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