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目が覚めるとベッドの上。辺りはもう薄暗い。あっ、いけない、僕は無断で!! おばあちゃんが心配している!!
すぐに起き上がるも、力が入らなかった。体がくにゃっとなり、またベッドの中にポスって埋まった。ベッド下にある服の中から携帯を手繰り寄せた、時間は二十二時。着信がいくつも残っていた。すぐにかけなおそうとしたら部屋に楓が入ってきた。
「起きたの? 起きてすぐ電話なんて、いったい誰にするつもりだ?」
先ほどまでの激しい雰囲気も、優しい雰囲気もない。何か怒っているみたいだった、運命だけど抱いた後に後悔したのかな。悲しいけれど今はそれどころじゃない。
「あ、おばあちゃんに。僕おばあちゃんと二人暮らしだから、今まで夜遅くまで家に帰らなかったことなかったから、きっとおばあちゃん心配していると思って、電話していいですか?」
「あ、ああ、そうだったんだ!! 由香里はこの時間まで外に出たことないくらいの箱入りだったんだね。処女だし、そうだよね! 気づかなくてごめん、電話して、大丈夫だって伝えたほうがいいね」
なんか急に優しい香りがしてきた。僕を抱き寄せてくる楓の胸に収まりながら、裸のまま家の電話に折り返しするとおばあちゃんが案の定心配した声を出していた。おばあちゃんの優しい声を聞いたら、僕は少し涙ぐんでしまった。楓が僕の頭を撫でてくれる。
『由香里!! どうしたの? 何があったの、大丈夫?』
『おばあちゃん、時間を忘れて……ごめんなさい、何もないよ。でもこれからすぐ帰るからもう寝ていて』
『迎えに行くわよ、どこにいるの』
『大丈夫、ほんとにすぐ帰るから心配しないでね』
電話を切ったけど、おばあちゃんが起きて待っていてくれるのは想像つくから、僕は急いで帰ろうと思った。
「あの、電話終わりました。やっぱりおばあちゃん凄く心配して、僕が帰るまで眠れないと思うから、すぐに帰らなくちゃ」
「ああ、電話聞いていたよ。おばあさんが家に一人じゃ心配だもんね、送るから待って。それから俺たちはもう恋人だから敬語なんか使わないで」
「こ、いびと?」
「そうでしょ、今回はこれが邪魔して番になれなかったけれど、次はこれを外して番になろうね」
「あっ」
これって言われたのは、僕の首を覆うネックガード。うなじ部分だけがかなり劣化していた。きっと楓がラットを起こして噛んだのだろう、そんなやわじゃないから噛みちぎることはおろか、うなじにも届かなかった。それをホッとしたのか残念と思ったのかは今の僕は分からない。
「その首輪のカギ、貰わないとね」
「えっ」
「ヒートで忘れちゃった? 首輪のカギは家にあるって言っていたでしょ」
「そう、そうだった」
僕がぼうっとしていると、楓がキスをしてきた。
「んん、ん、だめ、もう帰らないと」
「まるでシンデレラだ。日付が変わる前にきちんと送り届けるから、ね、キスだけだよ、今日は帰すけど近いうちにおばあさんに挨拶してきちんとしようね」
「……」
「由香里? 分かっていると思うけどもう逃がさないよ」
「ふふ、何それ。もうも、何も、今日会ったばかりでしょ」
いきなりの溺愛とか、ちょっと面白くて笑ったら、真面目な顔をする楓がいる。
「俺は、ずっと運命を求めていた。だから出会った以上逃がさない」
ぞくってした。別にこの優しい人が怖いわけじゃないけれど、だけどこの言葉は僕の根底を震えさせるくらいの力があった。
「うん、楓、好き」
「俺は由香里を愛している」
「ふふ、さっき初めて会ったばかりなのにね」
「それが運命だよ」
動かない僕の体を支えて服を着せてくれて、抱きしめて車に乗せてくれると、そこでもずっとキスは続いた。お抱えの運転手がいるとか、やっぱり僕とは全く違う世界の人だった。
僕を家まで送り届けると、抱っこして部屋まで運ぶと言われたが、こんな時間でアルファに抱っこされて家に帰るとさすがに祖母がびっくりして倒れちゃうからと断った。
連絡先を交換して、また明日会う約束をしてその日は別れた。
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