三馬鹿の参加した合コン(過去)

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三馬鹿の参加した合コン(過去)

 橋本と綿貫と三人で街コンに参加したことがあった。会場はお洒落なレストラン。逆さのグラスがカウンターの近くにいっぱいぶら下げられていた。会費は一万五千円だったかな。緊張するな、と綿貫は顔を引き攣らせた。酒飲んで喋るだけじゃん、と橋本はいつも通りだった。俺は二人に誘われて来ただけなので、美味い酒があると良いなとしか考えていなかった。しかしいざ会が始まって戸惑った。まず、三人ともバラバラのグループに配置された。俺はてっきり友達同士で固まって、立食パーティーのようにあちこちで好き勝手喋るのだと想像していた。しかし実際は自己紹介の用紙を書かされ、名札を胸に付け、男女それぞれ一から六まで分けられたグループを順番に回っていくというコースを強制された回遊魚のような扱いだった。いきなり一人にされて困り果てた。橋本と綿貫がいれば、二人と喋りつつ相手の女性に話題を振れると高を括っていた。俺一人で知らない誰かと話すなんて無理だ。酒は好きだがうんちくを語れるほど詳しくも無い。趣味や休日の過ごし方を書く欄もあったが、人間観察や散歩くらいしか思い付かない。ここから話を膨らませられる奴がいたら今すぐクリエイターになると良い。きっと一流になれる。俺はただの会社員なのでありのまま人間観察と散歩と書き、多分話しかけられることは無いなと訪れるに違いない未来を受け入れた。 「時間が来たら、男性グループの方々に隣のテーブルへ移動していただきます。アナウンスをしますので、それまでは自由に自己紹介と歓談に当てて下さい」  スタッフの方はそう言うと裏手へ消えた。俺が宛てがわれたCグループはどうするのだろう。誰かが仕切ってくれるかな。ぼんやりと各自の顔を眺めていたら、じゃあ始めますか、と色が黒くて精悍な顔付きの男性が切り出した。男女共、テーブルにいる面々は彼に従い自己紹介を始めた。冗談を言う者。おどける奴。愛嬌を振り撒く人。全員に共通しているのは笑顔で話すところだった。別に楽しいとも思わないし、なんなら想定外の展開に面食らっていたが何とか俺も口角を持ち上げた。目は死んでいたに違いない。  一通り自己紹介が終わると、ここからはフリーでいいよね、と急に手綱を離された。どうなるのかと引き続き眺めていると、十二人の男女は二、三人ずつの小さな塊に別れた。気になった相手のプロフィールついて詳しく聞くために分裂したらしい。時折人が入れ替わる。困ったことに、俺は誰が何を言ったかちっとも覚えていなかった。聞いてはいたけど一回こっきりでは到底覚えられない。他の人達はそれが出来ているから気になる人と話をしているわけで、皆大したものだなと感心した。案の定、話しかけられることは無かった。暇なので酒を飲みながら橋本と綿貫の様子を見てみた。橋本は女の子を二人相手にして、笑いながら喋っていた。いつも通りモテますこと。綿貫は、身振り手振りも熱心に一人の男と話し込んでいた。マジで、という奴の声がここまで届く。相手の男はこちらに背を向けていて表情は読み取れない。何やってんだあいつ。男友達を増やすのは別にいいけれど、街コンなんだから女子と喋れよ。俺が言うのもなんだけどさ、熱量を向ける先が間違っている。それにグループが変わったらそこにいる女子とは離れちゃうんだぞ。いるかも知れない運命の相手を探したらどうだ。いや、と追加の酒を受け取りながら考える。綿貫の運命の相手は今喋っている男なのかも。今日この場で出会ったという点に置いては彼も同じだ。じゃああの熱量で喋っても問題は無いか。その時、酒を取るために相手の男が綿貫へ背を向けた。ようやく顔を拝めた。こんばんは綿貫の運命のお相手。末永くあいつをお願い致します。そんな風に思っていたら、彼の表情が一瞬崩れた。強く目を瞑り、歯を食いしばっている。あ、これ駄目だ。綿貫に話しかけられて滅茶苦茶迷惑に思ってる顔だわ。二人の周囲を確認する。横目で様子を伺っている女子はいるものの、綿貫の熱量に引いたのか別の男達へ話しかけに行った。後で説教だな。そう決めていたところ、橋本が男二人の場へ侵入してきた。おや、お前はグループが違うだろう。それとも綿貫をずっと気にかけていたのか。俺は一人で暇だから眺めているだけなのに、優しいねぇ。橋本は綿貫に二言三言言葉をかけると自分のテーブルへ戻った。綿貫は話し掛けていた相手に両手を合わせ、頭を下げている。相手は手を振りいそいそと女子の元へ向かった。後には一人グラスを持つ綿貫が残った。これにて一件落着。よくやった橋本。親指を立てようと橋本の方を向くと、さっきとは別の女子と話をしていた。本当にモテるなあいつ。中学生の時から何故か女子が寄ってくるんだよな。放っておけない末っ子みたいな空気が受けるのか。耳を澄ませる。かろうじて会話の内容が聞き取れた。 「橋本さん、友達のためにわざわざ声をかけてあげたんだ。優しいね」 「まあ親友だから。せっかく一緒に街コンへ来たんだし、いい出会いをしてほしいもの。それに、付き合わされていたあの人にも悪いしね」 「でも自分のことより友達を優先するなんて偉いね」 「余計なお世話かも知れないけど、気になったことは伝えてあげたいからさ」 「本当に仲が良いんだ。羨ましい」  あ、これ違うわ。優しさとかじゃないわ。綿貫をダシにモテようとしているだけだわ。親友の奇行を踏み台にするとは友達の風上にもおけない奴。まあいいか。結果的に捕まっていた彼は解放された。ウィンウィンなら難癖をつける必要もない。綿貫が一人でぼんやりするようになったことを除けば皆幸せだ。 「あと一分で時間です。次のテーブルに移動する準備をお願いします」  最初に案内された通り、アナウンスが入った。やれやれ、あと五回も同じことをするのか。会が終わった時に俺が得るのは酔いだけだろう。橋本は問題ない。綿貫、お前にもこれからいい相手ができることを祈っている。自己紹介を書いた紙とグラスを手に持つ。準備万端。レッツゴー。
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