三馬鹿の参加した合コン(過去)

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 つまり俺は合コンだの街コンだので上手いこと立ち回れる人間ではない。しかし綿貫のように他人の足を引っ張ることも無い。その場で一人佇んでいるだけ。積極的に参加をすることは有り得ないので誰の迷惑にもならない。ただひっそりと過ごしている。どうせ俺が話しかけても盛り上がったりはしない。何故なら俺に盛り上がる気が無いから。たまに女子の方から声を掛けて来ることもある。しかし期待はしない。変に盛り上がれば相手を困らせる。故に俺は淡々と、丁重に、投げかけられた言葉に応じる。結果、六回ほど連れて行かれた合コンや街コンでの収穫は連絡先を交換した相手が三人いるだけである。一応ゼロではない。だから反省もしない。綿貫はゼロ。あいつは反省すべきだ。ちなみに綿貫の場合は空気が読めていないのが原因でモテないのである。あと、俺とは正反対にやたらと高揚して相手を戸惑わせる。別に女子の声を聞いて性的に興奮をしているわけではない。単に話す機会が少なかったから、いざその場を迎えると極端に緊張するのだ。それなのに合コンや街コンへ参加するのは、彼女が欲しいという純粋な望み故である。あいつの熱意を受けて橋本が話し方や落ち着く手段を教えたのだが、いざ女子を前にすると全部頭から吹っ飛んでしまうらしい。毎度毎回デカい声で名乗りを上げるところから始まる。 「綿貫さ。仕事で取引先の偉い人と会う機会もあるわけでしょ。そういう時もデカい声で綿貫と申しますって叫ぶわけ?」  気になって一度確認したことがある。そんなわけないじゃん、と鼻で笑われた。失礼な奴め。 「何でそんなことを訊くんだよ」 「お前、女の子の前で毎回戦国武将みたいに名乗りをあげるじゃん。緊張から来ているんでしょ。じゃあ偉い人を前に緊張したら同じようになるのかなって気になった」 「仕事の時は別だよ。一人の大人として、キチンと振舞う。必要以上にデカい声をあげたって契約は取れないんだ。むしろマイナスにしか働かない。その辺はキッチリ切り替えられますよ」 「じゃあ女子の前でも切り替えろよ」  ぼそりと橋本が呟いた。思わず吹き出す。痛いところを突かれた綿貫は口篭った。あの時は、そうだ。橋本が集めた三対三の合コンの後、俺達だけで反省会を開いていたのだった。橋本はいつも通り、女子達とそつなくお喋りをしていた。俺は端っこで黙って酒を飲んでいた。その時の綿貫がだいぶ酷かったんだよなぁ。最初にいつも通り名乗りを上げた。もっと声は小さくても大丈夫、と橋本が固い笑顔で宥めた。それから、流れは忘れたが部活は何をしていたかという話題になった。女子の一人が高校では野球部でマネージャーをやっていたと言ったので、綿貫は野球観戦が好きだよね、と橋本が話を振った。そうだよ、程度の返しをすれば十分だったと思う。だって部活動の話の真っ最中だったから。後々、野球が好きなら今度観に行こうか、なんて誘うことも出来たはず。しかし綿貫は突然贔屓のプロ野球チームの話を始め、子供の頃から十年以上応援していること、現地で観戦する迫力がテレビとどれだけ違うか、如何にプロ野球選手達が天才であるかを熱く語った。まだ話を続けようとしていたが、俺が一発引っぱたいた。 「何すんだよ田中」 「俺はまだ部活の話をしていないんだよ」  そう返すと珍しくちょっと笑いを取れた。しかし熱心に部活をやっていたわけでもないので俺の話は特に盛り上がらなかった。反応は、へぇ、とかふぅん、だけだった。慣れているので気にもならない。後を受けた橋本が、上手いこと場を回すのを見て感心するばかりだった。  別に橋本も昔から女性の扱いが上手だったわけではない。高校在学中、橋本は十人に告白され九人を断った。理由を訊いたら、自分が告白されるわけがない、きっと罰ゲームに違いない、と無表情で答えた。橋本が異様に低い自己肯定感を持っていることが悲しかったし、勇気を出して告白した人達がそんな理由でフラれるのも可哀想なので、相手に正面から向き合うよう説得した。結果、十人目とあっさり付き合った。その人とはしばらく交際していたけれど、大学進学に伴い遠距離恋愛になり別れてしまった。しかしお付き合いの経験を糧とし、またモテることを自覚した結果、奴はあっという間に勝ち組へと至った。大学、社会人とずっとモテている様を見て少しだけ後悔した。相手と向き合えと言わなかったら未だに自己肯定感が低いままだったかも知れない。そうしたら三人揃って非モテだったに違いない。いや、やっぱり橋本だけでもモテてくれ。非モテのアラサー男が三人揃って管を撒いている様は控えめに言って地獄だ。一人、華があるだけで随分マシになる。  ちなみに俺が連絡先を交換出来た三人というのは、その時の合コン相手だ。綿貫の暴走を止めた分のお駄賃みたいなものだと思っている。酔っ払ったあいつがトイレへ行った隙に交換させてもらえた。その後、三人の誰かと連絡を取ったことは一度も無い。お駄賃は小銭入れの中に仕舞いこんだまま。日の目を見ることも無いだろう。
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